(キドロで現パロ)
(性描写を含みますのでご注意ください)




自宅に犬を一匹飼っている。
耳はなく、毛皮で覆われてもいないけれど、左右に振られる尾は見えることがある、とローはこっそり思っている。俺にだけ見えるのだ、うぬぼれではなく。真っ赤な毛色をした飼い犬はお世辞にも目付きがいいとは言えず、人並み以上に整ってはいるものの、いつも無感動に不機嫌をひと匙混ぜたようなむすりとした顔をしている。そしてローにしか懐かない。むすりと無愛想な顔でローに尻尾を振っている。




「付き合ってくれ」

キッドにそう言われたのは、大学二年の冬、年の明ける少し前だった。知り合ってそろそろ一年だろうか、早いものだと缶ビールを傾けながら、じっとこちらを見ている赤い瞳を見つめ返した。ほろ酔いで、頭は比較的はっきりしていたが、いまひとつ状況と真意が掴めなかった。

「付き合うって……え、俺と?」

「そうだよ」

「……なん、で?」

「…好きだから」

キッドの眉のない眉間が顰められる。怒らせたのかと思ったが、スッと伏せられた目と何かを言いかけて結ばれた唇が、この男が柄にもなく気落ちして何かを諦めかけているのだと示していた。傲慢で不遜で執着など知らなさそうで、それが嫌味なほど似つかわしいキッドが。ビールの缶に口を付けたまましばし固まったローを見て、決して短くはない沈黙を耐え忍んで、キッドの口から出たのは「……悪い」という謝罪だった。

「…悪い、今のは忘れろ」

「ユースタス屋…、酔ってんのか?」

「酔ってねえよ……くそ…ッ、忘れろって、悪かったから」

「…俺のこと好きなのか」

「…うるせえ」

「今そう言った」

「……」

「ユースタス屋」

「……好きだよ」

「そうなのか…」

「……」

「うん、じゃあ付き合おう。よろしく」

「……は?……酔ってんだろてめえ」

「酔ってねえよ」

そう言って、身を乗り出して軽くキスをした時までだった。ローがこの男に対して多かれ少なかれ、周囲の評するような感想を抱いていたのは。傲岸不遜で女泣かせで近寄りがたく、他人など歯牙にも掛けない。もっともローにとっては良き友人で、悪友といってもいいほどで、気安い仲だったが。
これがそんな取り澄ました野郎だったか、と今でも少し遠い目になる。
唇に触れてからのキッドには、もう殊勝なためらいなど微塵もなかった。背にしていたソファに上体を押さえつけるようにして、口付けというよりひたすらに貪られていた記憶しかない。唇も歯列も抉じ開けて侵入した舌が粘膜の境をなくそうとするように絡まり、頭の中も、どんどん体温を上げる皮膚もなにもかも溶けてしまいそうだった。何度も名前を呼ばれて、合間に好きだと囁かれて、ひたすらにローを抱きかかえて離さない。堰を切るとはああいうことを言うのかも知れない。いつもの仏頂面がなんだか少し泣きそうにも見え、事実赤い瞳は揺れていた。一生叶わねえんだと思ってた、と震える声は、おそらくローが初めて聞いたキッドの弱音だった。酸素が足りずにもがくローを見る眼が、飼い主に飛びつきたくてそれを懸命に耐えている犬のようで、思わずその頭を撫でていた。
その次の春に、少し広い部屋に二人で住み始めてからずっと、ローは自宅で大きな犬を飼っている気分だ。




誰かが胸倉を掴んで、揺さぶった頭を床にガンガンと打ち付けているに違いない。
そう確信しながらの目覚めは、人生においてそれは最悪の部類に入るものだった。もっともその『最悪』をローは今生で何度か経験している。酒に強いというのは美徳だな、と思った。そして俺は自分の限界を見誤る大馬鹿だ。完全に二日酔いだった。天井がゆらりと揺れて、頭は脈打つように痛む。
首を動かすことすら億劫で、視線だけをゆるゆると移動させた先、ベッドサイドに佇んでじっとこちらを見下ろしているキッドの姿にぎょっとして跳ね起きそうになった。実際はびくりと身が竦めた程度だったが、なにしろ心臓に悪い。ヒッと息を詰めたローの額に掌を乗せ、目許をなぞり、頬をするりと撫でて「起きたのか」とキッドはひどく今更なことを口にした。

「顔色ひでえぞ」

「……知ってるよ…お前そんなとこ立ってんなよ、寝起きにびびるだろ」

「起こそうかどうか迷ってた。水いるだろ?」

「いる…気持ち悪りぃ…」

渡されたグラスの水からはほんのりとレモンの香りがした。中途半端に起き上がり、だらしなく壁に頭を凭せかけてグラスを傾けるローを、キッドは黙って眺めていた。口数が多くないのはいつものことだが、なんとなく居心地が悪い。「なにか食うか?」と訊ねられた言葉に力なく首を振る。唇を濡らし、ひと筋零れ落ちた水滴をキッドの指が拭い去った。

「昨日どうしたっけ…自力で帰ったか?」

「俺が迎えに行ったんだよ、完全に潰れやがって…セーブできねえならいっそ飲むんじゃねえ」

「…悪かったよ」

「何度目だ」

「……ごめん」

完全に自分に非がある状況では、さしものローも反論はできなかった。「…ごめん、迷惑掛けて」とグラスの縁を噛みながら殊勝にうなだれる姿にキッドは深々と溜息をつき、大きな掌がぐしゃりと髪を掻き回した。慰めと叱咤が半々の荒っぽさに、揺らされた頭の奥がまた痛む。ベッドの縁に腰を下ろして顔を覗き込んだキッドはしばし無言だったが、少し怒っている眼がローを咎めていた。

「迷惑とかいう話してんじゃねえからな」

「……」

「…前後不覚になんのはマジでやめろ。別に飲みに行くなとは言わねえけど、よそに泊まんのは認めねえぞ」

「…ちゃんと帰るつもりだったんだ」

「…どうだかな、電話も取らねえし」

「……ユースタス屋」

「なんだよ」

「もしかして拗ねてんのか?」

「…誰がだ」

そっぽを向いた口元が少し尖っている気がする。
子どもでもあるまいし「何時までには帰るから」などと取り決めていたわけではないが、日付が変わる前に、というのが二人の間の暗黙だった。なんとなく、互いが互いの帰宅を待っているのだ。キッドは待ちくたびれたローが毛布も掛けずソファでうたた寝をすることを心配したし、ローだって躾の悪い犬のように自分に圧し掛かって離れないキッドが、腕に収めるものもなくぽつんと部屋で待ちぼうけているのかと思うと落ち着かなかった。

「ユースタス屋」

「…だからなんだよ」

「次はお前と二人で飲む」

「……そうしろ」

ローの手から取り上げたグラスに少し残った水を自分で飲み干し、キッドがぎしりとベッドに乗り上げてきた。脇に避けて場所を空けてやると素直に布団に潜りこみ、伸びてきた腕がずるずるとローを引きずりこむ。「酒くせえ」と文句を付けるくせに、ひと回り薄いローの身体をすっぽり抱え込み、首筋に鼻先を押し付けてあたたかな皮膚を食んでいる。

「寝るのか?」

「寝ろ。起きたらなんか飯作ってやる」

「あんま食えねえかも」

「食わせてやるよ、とりあえず寝ろ」

とうに日は高く、部屋の中は明るい。怠惰でしあわせな提案だった。空調は切られているが、差し込む陽光でぬくもった部屋の中、羽根布団とキッドに抱きしめられていると寒さなど感じない。
ふと枕元に投げ出されていた携帯に気付き、ほとんど丸一日ぶりにそれを開いた。ジーンズのポケットに捻じ込んでいたのを、キッドが出してくれたのだろう。マナーモードのままになっていたそれには、昨晩付けで着信が五件、メールが四通表示されていた。ローの首筋に顔を埋めたままもう穏やかな寝息をたてている男の、きっと眉間に皺を寄せて焦れていただろう表情がまざまざと浮かぶ。申し訳なさと、どこか甘く心臓が軋むような感覚に、ひんやりとした液晶に火照った頬を擦り付けて笑った。




少し寝苦しい。二度、三度と寝返りをうつうちに、まどろんでいた頭が覚醒しはじめる。
ひどく寝汗をかいていた。湿った部屋着が気持ち悪いが、酒はすっかり抜けたのだろう、気分はずいぶん良くなっていた。
そういえば、ひどく身軽だ。振り向くと一緒に眠っていたはずのキッドはいない。シーツにはまだぬくもりが残っている気がしたが、あれだけ密着しておいてどちらの体温かなど分からなかった。少し開いたドアの向こうから、流れる水や、まな板と包丁の噛み合う音が聞こえてくる。起きたら何か作ってやる、と言われていたことを思い出すと、まだ少し重い身体のまん中にも空腹の気配がした。

びっしょりと汗をかいた背中が震え、ひとまず風呂に入ってしまおうと思った。上がる頃にはちょうど食事の支度が整うだろうという目測は、けれどあっさり外れることになる。
頭から熱いシャワーを浴びて、シャンプーのボトルに手を伸ばしかけたところで、浴室のドアがガチャリと開いた。驚いて振り返ったローの全身を、かけらも悪びれていないキッドの赤い視線が這っている。頭のてっぺんからつま先まで、そしてもうひと往復。たっぷり数秒を無言で見つめ合い、いたたまれなくなったローが口元を引き攣らせて名を呼ぶ前に、キッドはおもむろに着ていた服を脱ぎ捨ててずかずかとバスルームに踏み込んできた。付けっぱなしのシャワーが逆立った髪を濡らし、真っ赤な色が頬や首筋に流れ落ちる。後ずさろうにも大した逃げ場もないバスルームで、あっという間に手首を掴まれ、腰を捕らえられた。

「おま…っ、ちょ…っと待て!いきなりなに、」

「具合は?気分どうだ」

「は…?…だいぶいい、けど…おい離せって…!」

「じゃあいいだろ、起きるまで大人しく待ってやったんだ」

「…な、にがいいんだよ…!俺は今から風呂に…っ」

「ずっと抱いてたらやりたくなった」

大きく開けた口で噛み付けば、ローの首など半分近くが食い千切られてしまいそうだった。まだ微かにアルコールの匂いの残る肌をべろりと舐めあげ、きつく吸い上げられ、ときおり骨に歯が当たる。痩せた身の、少しでも肉付きのいいところを探すような仕草だと思った。ずるずると座り込んだタイルは、まだ温まりきらずに冷たいままだ。バスタブに背を押し付けるようにローを追い詰め、キッドは腕を伸ばしてザァザァと降り注ぐシャワーを止めた。途端静まり返ったバスルームに反響する自分の吐息と抑えきれない呻き声に頭の芯が熱くなった。あたたかい湯を切らせ、濡れた身体がみるみるうちに冷えていく。けれど、確かに鳥肌をたたせて震えているのに、それが寒さからくるのか、別のもののせいなのか分からなかった。
ボディソープのポンプを数度押し、ぬるりとしたキッドの掌が太ももの付け根を這う。足を割り開かれ、ゆるく勃ちあがっているものに冷たくぬめる液体が絡み、塗り広げられていく。手の中でビクンと震えた熱にキッドが吐息だけで笑った。気持ちいいのか、と囁く目の前の男の顔を見られず、けれど俯けばあられもない格好で足を開く光景が広がっていて、ローはたまらず目を閉じる。目尻に浮かぶものがシャワーの水滴か涙なのか、舐め取ったキッドにしか分からないだろう。なぁ、気持ちいいんだろ、トラファルガー、とひどく優しい声が呼んでいる。答える代わりに少し体勢を崩して、弄られ続けているそこをねだるように差し出した。片方の膝に手を掛けておずおずと開いてみせれば、キッドが軽く息を詰める気配がして、ほんの僅かに溜飲が下がった気がした。性器を撫でさすっていた掌が離れていく。早くも期待にひくついていた孔に、ボディソープの滑りを借りて、長い指がずぶずぶと埋めこまれていく。痛みはなく、いくらかの圧迫感だけだった。それをもう不快ではなく、心地良いと思えてしまうほどには、この男に身体を拓かれ慣れていた。こんな場所で男相手に、ほぐしやすいように足まで抱えて後ろを許しているのだと思うと、羞恥を通り越して倒錯すら覚える。あっという間に指が増やされ、ぬちゃりと粘ついた音に聴覚を犯されながら、そっと薄目を開けた先に勃ち上がったキッドの性器を見た。あんなに、腹にまで付きそうなくらい余裕を失くして、それでもいつもと変わりない仏頂面をしてローを気遣っているのだろうと思うと、たまらない気持ちになった。気が長いんだか短いんだか分からない。もう意思と関係なく腰が震えだしている。中で指が曲がり、腹の側の一点を擦るたび、糸を引いて先走りが零れ落ちた。

「…ユー…スタス屋…」

いっそ自分から跨って一息に呑みこんでしまいたいくらいで、だけど萎えた膝ではそれもままならない。そっと濡れた髪を引っ張ると、熱に浮かされたようなキッドの瞳が覗き込んでくる。

「…トラファルガー?」

「…もう、食っていいぞ」

一瞬、猛獣のような目をしたくせに、押し入ってきた動きは予想よりもやさしかった。喉笛に喰らい付いて押さえつけられながら、引き裂かれるように犯されるのだと思ったのに。感心なことに、あるいは腹立たしいことに、思いのほかこいつは強固な理性を持っている。そんなもの、どうせすぐ崩れてしまうくせに。名前の呼び方で分かるんだ、とローは皮膚のひきつれそうな背中を疎みながら考えていた。長ったらしいファミリーネームが打ち捨てられ、ロー、ロー、とうわごとのように繰り返されている。ローを冷えたタイルの上にねじ伏せ、そのくせ庇うように片腕で薄い背をかき抱きながら、苦しい体勢にも構わず何度も何度も唇を重ねてくる。限界を超えて穿たれている腹の奥が破られてしまいそうだった。日頃は澄ました顔をしているキッドが、体裁もなにもなく全身でローを求めている。酷薄そうだと評される引き結ばれた唇から、惜しみなくとめどない愛を囁いてくれる。どれほど深く繋がっても足りないと言いたげに肌がすり寄せられる。
ただひたすらに、その瞬間が好きだった。


限度というものは忘れても、限界はおのずとやってくるのだ。荒々しく揺さぶられ続けて、快楽の境目が分からなくなっている。心の準備もなく白濁を吐き散らしたかと思えば、あと一歩で届かない絶頂に気が狂いそうになって泣き喚いてもいた。吐き出すものもなくなって、一向に手放す気のないキッドの好きにさせながら、胎内に三度目の熱が染み渡っていく感覚にようやく我に返った。いい加減に死んでしまうとさえ思うのに、キッドは出て行く気配もない。

「…ユ…スタス屋……むり、もう…」

「ん…もうちょっと」

「……無理…」

尚も首に噛み付いてこようとする口元を覆って、ぐい、と顔ごと押しのける。

「…ステイ」

まるくなった赤い瞳がぱちんと瞬いた。
まるで息は整わないし、目も潤んでいるのだろう。下肢をだらしなく投げ出して、体液だかなんだか分からない泡や白濁がこびり付いている。こんな飼い主、俺なら願い下げだと自嘲しながら、咥え込んだままの中途半端に芯を持った性器を引き抜こうとした。
短い命令のその意図を察して、それでもまだ食い下がろうと覆い被さってくるキッドを、鷲掴みにした赤毛を思いきり引っ張って引き剥がす。

「ス、テ、イ、だ!聞き分けろバカ犬……」

精一杯の威厳を込めて叱れば、少しだけ不満そうにローを睨みながら、掌にやわらかく牙が立てられた。




行為そのものはともかく、腹の中にたっぷり詰まった精液を掻き出されることだけは何度経験しても慣れない。「だからゴム着けろっていつも…」と文句を言いかけた声が力無く途切れる。いつもいつも、終わってから訴える自分も大概だと思った。二本の指で抉じ開けられている奥に飛沫を叩きつけられる感覚を思い出してふるりと肩が震える。勢いを弱めたシャワーでそっと流され、新しいボディソープを掬った掌がやさしく身体を洗っていく。敏感な場所を撫でられるたび、火の付くことのない熱がそれでもジリジリと燻るのがつらかった。
ローを抱きしめたまま窮屈なバスタブに居座ろうとするキッドをどうにか追い出し、気だるい身体を存分に湯に伸ばしてようやく人心地が付いた。眼を閉じると浮力がどんどん増していくような気がする。キッドに背中から圧し掛かられ、拘束され慣れた身にはそれがどこか落ち着かなくて、大概に毒されていると少しおかしくなる。

「あ、服…」

脱衣所の、いつも着替えを放り込んでいる籠が空だった。すっかり用意を忘れていたのだ。脱いだ服は無くなっていたから、キッドがまとめて洗濯機に入れてくれたのだろう。バスタオルでガシガシと髪を拭きながら、全裸でクローゼットに突撃するか否か少しだけ迷う。二秒で結論は出た。寒いからいやだ。

「ユースタス屋ぁ!」

リビングに向かって声を張り上げればすぐにキッドが顔を出す。中断していた食事の支度をしていたのだろうか、袖が捲り上げられ、両手が少し濡れていた。

「あのな、服忘れちまったんだ。悪いけど持ってきてくれねえか」

「全部か」

「全部。下着も」

面倒そうな顔ひとつせず、畳まれた衣類を一式持ってきたキッドは、流れ作業のようにローからバスタオルを取り上げ、おざなりに水気を取っただけの頭からすっぽり被せた。髪も身体も小さな子どもにするように隅々まで拭われ、キッドのこういった扱いに慣れているローもいささかの気恥ずかしさを覚える。面倒だからと自然乾燥に任せている短い髪にも、どうせあとで無理矢理ドライヤーを掛けられるのだ。ほんの五分足らずのその工程を、なにが楽しいのかこの男がこよなく愛していることを知っている。
従者よろしく屈んで足元までしっかりと拭き終えると、そのまま足首を掴まれ軽く上げさせられる。何も考えず惰性で従っていたローは次の瞬間、横に置いてあった下着を手に取ったキッドにぎょっとした。何を思ったか、目の前で跪いたまま、布地を広げて足首を通そうとする赤いつむじを呆然と見下ろした。言葉もないローにもまるでお構いなしに片方ずつ足首を持ち上げ、淡々と下着を穿かせ、部屋着にしているデニムも同じように身に着けさせ、パーカーを頭から被せて、かろうじて袖を通させることは断念したのは、我に返ったローに拒まれたからに他ならなかった。

「…ユースタス屋」

悪びれもせずドライヤーのコードを伸ばしている男に口元が引き攣る。甲斐甲斐しいというより、いっそこれは。

「…お前のこういうの、もう趣味か性癖としか思えねえ」

「あ?放っといたらなんにもしねえだろてめえは。それに…」

「……それに?」

「趣味ってより生きがいだな」

悪びれもない言葉にくらりとした。相も変わらず取り澄ました顔でドライヤーを構えて、そっと俯かされた先にブンブンと千切れんばかりに振られる尻尾が見える。きっとローにだけ見える、大きな図体に見合ったふさふさの真っ赤な毛並みをして。
頬と耳がやたらに熱いのは、吹き付けられるドライヤーの熱風のせいに違いなかった。



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