(そらの様へ相互御礼です!)
(キドロで海賊設定→転生現パロ)
(ハートやその他諸々の捏造、性描写、死ネタを含みます)





Let's take a trip somewhere far away.
(どこか遠くへ行っちゃおうか)


あろうことか、ユースタス・キッドに恋をした。
馬鹿げた話だった。よりにもよって、この世で一番好きになるべきでない部類の男だと分かっていた。
出会い方も、互いの立場も印象も、交わした言葉さえも、甘ったるい要素なんか何ひとつなかったのに気付いたときにはもう手遅れだった。手遅れなんだと、気付いたときには呆然とした。
あまりにも理不尽だ。俺はきっと何かに騙されてる。このまま何も考えずに三日三晩眠り続けるべきだ。目が覚めたらきっと全てが夢で、思い込みで、気の迷いだったと笑い飛ばせるに決まってる。
ベポのふわふわの腹に顔を埋めながらそんなことを半ば本気で考え、半ば本気で実行しようとした。
天気の良い甲板で、日向の匂いのする白い毛皮はどんな羽根布団より気持ちがいい。「ベポ、俺は今から寝れるだけ寝るから、絶対に起こさないでくれ」そう念を押して、元気よく了承の返事を寄越したベポに安心してまどろみに落ちたが、俺の悪足掻きは夕食の時間まですら持たなかった。三日三晩などと、元が不眠症気味の人間にはとうてい無理な話だった。
結果、俺は鬱々とした腹の内を持て余しながらも、どうにか折り合いを付けていくしかなかったのだ。

「感心しませんね」

呆れとも不機嫌とも取れる口調で詰ってきたのは、察しの良過ぎるクルーだった。
目深に被った帽子の影から、ただでさえ見えづらい眼をもっと細めて、ペンギンはいっそ忌々しげな口調で吐き捨てた。

「感心しません」

「そうか。まぁ…そうだろうな」

「あれはいただけない」

「…お前な、仮にも俺が……まぁいい、確かに『あれ』呼ばわりで充分だ。あんな鈍感野郎」

「分かっているならさっさと愛想でも尽かしたらどうです」

「二度と会うなとは言わねえんだな」

「…あなたに指図するつもりも、出来るとも思っていません」

「殊勝な心掛けだ」

「それから、船長が俺たちよりあんな野郎を選ぶとも思ってません」

不意を突かれて俺はよほど間抜けな面をしてたんだろう。溜飲を下げたように少しだけ笑い、それから何とも形容しがたい色をした眼差しが向けられる。
ペンギンにこういう眼で見られると、俺はいつも自分が出来の悪いガキでしかないような気分になった。そこには呆れと諦めと、どうしようもなさが故の愛情が詰まっていた。

「考えたくも無いですが、万が一あいつのせいで船長が傷心でも、俺たちが総掛かりで慰めて差しあげます」

「俺が泣きじゃくってても?」

「ちゃんとあやしてあげます」

「…愛されてるな、俺は」

同じ男を好きになるにしても、せめてこういうタイプにしておけば良かったのだ。
裏切りもせず、傷付けられることもなく、意図は汲んでくれるし、望めばどれだけでも甘やかしてくれる。何より俺のものだ。この先、生きようと死のうと絶対に変わることなく俺だけのもので、そういう分かりやすい関係が好きだった。
だけど現実ときたらどうだろう。
なんだって、よりにもよってこんな男なんかに。

「…何考えてやがる。集中しろ」

「…はっ、うっせえな…て、めえが、いつまでも終わんね…からだろ」

「だったら気合入れて締めろ。一人で散々楽しみやがって」

ろくに力が入らない腰を掴んで、思いきり体重が掛けられる。もう限界まで入ってると思ったのにとんだ勘違いだったらしい。繋がってる肉を無理やり抉じ開けられて、信じられないくらい深い場所までユースタス屋が押し入ってきた。つうか冗談じゃねえ、今まで根元まで入ってると思ってたのは何だったんだ。俺には子宮なんてねえから、腹の中を貫通して直接胃の底を叩かれているような感じがした。とんでもなく気持ちいいけど、すげえ気持ち悪い。揺さぶられる度に内臓がせり上がる感覚に吐き気を覚えて、とっさに堪えようとした喉が引き攣った。

「ぁっ、馬、鹿やろ…やめっ、あ、ぁ、ふ…ッ…」

「余裕そうだったからなぁ…少しは集中できたか?」

「…はっ、やぁ、あ…気持ち、わる…吐き、そ…っ」

「ほとんど食ってねえだろ。吐くもんあんのか」

必死に歯を食い縛って耐えてるのに、空気を読まないユースタス屋の指が唇を割ろうとする。嫌だと首を振ったらひときわ強く突き上げられ、悲鳴じみた嬌声を上げた瞬間に二本の指が入ってきた。舌の表面を撫でて喉の近くまで突っ込もうとしてくる。えづきそうになって思わず噛み付いたら、ユースタス屋が可笑しそうに低く笑うのが触れた肌から伝わってきた。
「吐いちまえば楽になるのに」そんな無責任な誘いが落とされたと思ったら、噛まれたままの指先だけがそろりと動き、また舌を弄り始める。下半身は下半身で、小刻みに揺すりながら奥へ奥へと入ろうとしていた。

「あーあ…身体がっちがちじゃねえか、少し力抜けって」

「…ふっ、ぅ…っ…」

「…でも、すっげえ締まる」

溶けた中を捏ねるみたいに腰を回されて、目の前が真っ白になった。
加減を忘れて口の中の異物を噛み締める。鉄錆くさい匂いと、一度だけ自分の腰が大きく跳ねたのが分かって、あとはもう空白しか残らない。気持ちいいのと気持ち悪いのと、甘ったるいのと苦しいのが全部混じって、気付いたら女みてえな甲高い悲鳴を上げて全身を痙攣させていた。抱え上げられた腰が目の前にあって、あまり勢いのない精液が断続的に吹き零れる様が嫌でも見えた。
せいぜい数秒程度のはずの絶頂が、ユースタス屋がひっきりなしに突いてくるせいなのか、もうとっくにどこかがイカレてるのか、出し切ったのにまるで終わる気配がない。口の中を弄っていた指が引き抜かれ、空っぽのくせにまだ少し勃ってる性器が掌に包まれる。圧し掛かってきたユースタス屋が耳元に何かを吹き込み、理解できる余裕もないまま必死に頷いた。気持ちいいかと聞かれたらいいと答えて、もっと欲しいか問われたら素直にねだって。自分の口から出てるとは信じがたい台詞が次々に零れ落ちていく。安宿の壁なんて薄っぺらいもんなのに。宿中に響いてるんじゃねえかって音量の嬌声と猥語に、もう羞恥を覚えることもできなくなっていた。

「…っ、締めすぎだ馬鹿……つうかお前ちゃんと息しろ」

「あ、んっ、ぁあ…!も、はやく…ッそこ…腹んなか、まだ入、る…から、ぁ、あ…っ!」

「ん…落ち着けって、欲しいだけくれてやるから」

荒い息遣いと、粘着質な水音と、耳を塞ぎたくなるような声が全身を犯していく。見開いたままぼろぼろ零れていく涙をユースタス屋が払ってくれた。無理やり身体を折り曲げられて、涎でべたべたの口元を犬がするみたいに舐められる。ひでえ顔、とどこか嬉しそうに笑われて、正直なところもう腹を立てる気力も残ってなかったけど、蕩けた頭でもからかわれてるのは分かったから目の前の肩に思い切り噛み付いた。
いつもこうだ。
クルーにさえ晒したことのないみっともない姿を見られ、全身知らない場所がないくらい暴かれて、終いには抵抗するのも馬鹿馬鹿しくなる。
「今更取り繕ったって何になる」以前そう言ったのはユースタス屋で、ふざけんじゃねえと罵倒しなければいけないはずなのに、今みたいに抱き潰されながら俺はその言葉に納得してしまった。多分、俺自身もどこかで思っていたことだった。
トラファルガー、と頬を撫でられて、合わない焦点を無理やり固定する。涙の膜が張った視界に赤い色が乱反射して目を細めた。
苦しそうにも見える表情でユースタス屋が息を詰め、同時に腹の奥に熱い体液が叩きつけられた。
無遠慮に暴れまわる他人の肉を食い締めながら、吐く息に熱が篭るのを自覚する。この瞬間が一番好きなのかもしれない。ユースタス屋の精液が腹の中を白く汚し、うごめく腸壁が物足りないとしゃぶりついているところを思い描く。じきにユースタス屋は出て行ってしまうけど、一滴残らず吐き出された白濁は俺のものだ。
何にも結びつかない、貪りあって奪いあうだけの行為のくせに、こいつが自分から何かを俺の中に残したという事実が奇妙なほどいとおしかった。




「明日、出航する」

渇ききった喉に味の付いていない炭酸水を流し込みながら、ほんの一瞬だけ自分の表情が強張るのが分かった。
聞こえないふりをしてしまおうか。ちらりとそう思ったけど、ユースタス屋がじっとこっちを見て忠犬よろしく反応を待ってるもんだから、仕方なく半分減った水のボトルを置いて口元を吊り上げて見せた。
案外あっさり笑えてほっとした。

「急…ってわけでもねえか」

「とっくにコーティングも終わったんだ、長居する理由もねえだろう」

「散々暴れやがったしな。おかげで小煩い海軍どもが後を絶たねえ」

「てめえが言えた義理かよ……いけ好かねえ野郎だし妙な縁だったが、酒の強さだけは褒めてやる。医者のくせに飲んだくれやがって」

吐き捨てられる皮肉さえも、どこか笑みを含んで耳ざわりが良かった。多少なりとも酔って機嫌がいいのか、それとも似合いもしない感傷もどきがこいつにも訪れるのか。
「新世界で会ったら、ぶっ殺す前にもう一杯ぐらい付き合ってやるよ」そんな安い挑発を寄越すくせに、俺がそれに乗るとは微塵も思っていないんだろう。刀はベッドのすぐ脇に立てかけられている。たった一閃すれば簡単に落とせそうなその首の無防備さときたら。
呆れよりも先に、こいつのことが好きだなぁ、と胸にストンと落ちてくる。

トラファルガー・ローには好きな男がいる。

声には出さず口の中だけでこっそりと転がして、いっそ笑い出したい気分だった。相手の名を聞けば誰もが瞠目するだろう。その次は絶句か嘲笑か顰蹙か。もしかしたら目の前のこいつすら例外ではなく。
元々交わるはずのなかった間柄だ。
それで構わないと思う。

「…ユースタス屋」

重い身体を無理やり起こして膝に手を掛けると、ユースタス屋は呆れた顔で俺を見下ろした。
それでも引きずり落とされることはないんだから、全くもって矛盾だらけの男だと可笑しくなった。

「あれだけやったのにまだ足りねえのか」

「お前こそ、最後の夜だってのに俺にかまけて女の一人も買いに行かねえとはな。またしばらくは船の上だろうが」

「……顔合わせる度に跨って腰振られてたら溜めてる暇もねえんだよ、ビッチ野郎が」

「惜しみない賞賛痛み入るよ、キャプテン・キッド。期待には応えねえとなぁ?」

「アホか、もう寝ろ。これ以上出るもんなんかねえくせに」

「……ねちっこいわりにちょっと出したらもう勃たねえのか。ユースタス屋の甲斐性無し、変態趣味の半不能野郎が」

「…てめえほんとに吐いて泣いて謝るまで犯すぞ」

顔にぼふっと枕を押し付けられて、そのままシーツの中に逆戻りさせられた。俺の頭くらい鷲掴みにできそうな掌が髪を掻き回してはぽんぽん叩いてくる。聞き分けのない子供を宥める仕草そのものだった。馬鹿にすんな、と思ったけど、一定したリズムは気持ちが良くてあっという間に眠気を誘われる。つい閉じかけてしまった目許に指先だけで軽く触れたユースタス屋は思いがけないくらいやわらかい表情をしていた。
別にこいつには何の意図も思惑もなかったのかもしれない。
ただこの部屋が気だるい穏やかな空気に満たされていたから、何となくそういう雰囲気だったから、せいぜいそんなところだろう。
それでも、さっきまで飢えた獣みたいにがっついていた男のそんな表情は、俺の心臓を締め上げて軋ませるには充分すぎた。

「……お前なんかのどこが良かったんだろ」

「………」

「なぁ、好きだよユースタス屋。こんなこと言うのは癪だけどな」

「…そうかよ」

「…男のくせにって言わねえのか」

「言いてえのは山々だがな、散々抱いておいて返す言葉がねえ」

「ははっ……ごもっともだ」

飽きもせず人の髪で好き勝手遊んでる指先を捕まえる。
人差し指と中指には噛み付いた歯型がまだくっきりと残っていて、いっそ喰い千切って飲み込んでしまえばよかったとすら思う。甲に爪を立てても掌に頬をすり寄せても、ユースタス屋は黙って俺の好きにさせていた。こんな物騒な胸の内なんて知る由もなく。

「…トラファルガー」

「んー…?」

「明日の朝イチで出航するけど、ここ出るとき起こすか?」

「…朝っぱらから何の嫌がらせだよ。寝るに決まってんだろ、どこへなりとも勝手に行け。あ、宿出るとき金払っておけよ」

「…てめえ、ついさっき俺のこと好きとか言わなかったか」

「空耳だろ」

可愛げねえ、と吐き捨てるユースタス屋が、それでも灯りを消してシーツに潜り込んだ後でちゃんと俺を抱きかかえてくれるのを知ってる。
身体はくたくたのはずなのに、いつもと違って妙に浅い眠りだった。
何度も意識が浮上するたび、隣に体温があることを覚醒しきらない頭で確認してまた目を閉じる。朝になって、ユースタス屋が身支度を整えている気配にもすぐ気付いた。
起き上がるか否かほんのわずかに迷ったが、結局は瞼を持ち上げるのも億劫な倦怠感が俺をベッドに繋ぎ止める。勝手に出てけと念を押しておいてよかった。こんなんじゃ無理やり起こされたところで悪態しか吐けねえし、元々気の利いた台詞なんか掛けてやれるわけもないのだ。
もう俺はこのまま二度寝に入る。だからさっさと行っちまえ、落ち着けやしない。

「……じゃあな。先に楽しんでるから、早く来いよ」

部屋を出る間際に髪を撫でた掌の感触や温度をきれいさっぱり忘れてしまえたら、どんなに良かっただろう。




今にして思えば、何か予感めいたものがあったのかもしれない。
これ限りでこれが最後だと。どこかでそう思っていたからこそ、言うつもりのなかった言葉も言えたし、恥も屈辱も快楽にすり替えてしまえた。
白い首に腕を回して、肩に顔を埋めて、爪を立てながらみっともなく喘ぎ縋って。どろどろになりながらも案外意識ははっきりしてた。全部思い出して何度だって憤死できそうなくらいには。
それを余すことなく見ていたユースタス屋が何一つとして咎めも嘲笑いもしなかったことが、俺にはただ素直に嬉しかった。




手足が途方もなく重い。
指先は冷え切っているのに、呼吸ばかりが熱く喉を焼いていく。
辛うじて刀に縋って立ち上がることができた。
よろけた拍子に欠けて罅だらけの刃が肉を裂く。鞘はとっくにどこかに行ってしまった。
血の味しかしない口の中が不快で唾液を吐き捨てたつもりが、嫌な音を立ててこみ上げた血塊が床にどす黒く染みを作る。息苦しくて咳をするたび折れた肋骨に響いて脂汗が滲んだ。さすがにやべえなぁ、と頭の片隅でどこか他人事のように思った。
これはもう駄目だろう。
中も外も、どうしょうもないくらいに傷みきっている。
霞んだ視界の端に赤や白の斑がちらついた。見慣れたつなぎが、見慣れない大量の血に染まっている。真っ白かったベポの毛皮は見る影もなく汚れ、裂けて、巨躯を伏せたままぴくりとも動かない。色鮮やかな帽子が傾いた甲板を滑り落ちていく。ひどく破損した潜水艦は足場としての役目すら失いかけ、立ち上がることのできないクルーを幾人も乗せたまま海の底に沈もうとしていた。
動ける人間なんて、俺の他にはもういなかった。
この船と海を墓場に、掲げた旗を墓標に、叩き潰すことのできない敵の喚声を鐘に、俺たちは今日ここで死ぬのだと理解した。

(納得、するべきなんだろう)

すまない、と心の底からクルーたちに謝った。
誰よりも、何よりも大切だった。最後まで守りきれなかったことを悔やみ、最後まで守ろうとしてくれたことに感謝した。
砲撃を受けて船が激しく揺れる。
堪らず地に付いた膝が海水に浸かって、それは俺にとってとどめにも等しかった。力の抜けた指先が刀を手放しかけるのを奥歯を噛んで耐える。全身の力が根こそぎ奪われる代わりに痛みさえも遠のくようで、こんな状況でさえなければほっと息をついたかもしれない。
景色が揺らいだのはまた攻撃を受けたせいか、俺自身が倒れたせいなのか分からなくなった。すぐ目の前に横たわっている白いものがベポなのか、誰かの着ているつなぎなのか、ぼやけた視界ではそれすらも分からなかった。口の中が塩辛いのは血なんだろうか、それとも入ってきた海水なのか。俺はまだちゃんと刀を握れているのか。青い青いこれは仰いだ空なのか、臥せて沈む海なのか。もう何も。


結局再会は叶わなかったけど、この訃報はあいつにも届くんだろうか。




なぁユースタス屋、好きになったのがお前でよかった。
忘れるのが一番だったのかもしれねえけど、でも、最期まで好きなままでいられてよかった。
だけどやっぱり駄目なんだ。こんな想いを抱えたままじゃ俺はどこにも行けやしない。
俺の生きた標も、死に行く先も、決してお前であっちゃならない。縋り付くなんて冗談じゃねえだろう。トラファルガー・ローがそんなつまらない人間だったなどと、それだけは絶対にごめんだ。
もう充分だから。
全部燃やし尽くして置いていこうと思う。




ありがたく思えよ、ユースタス屋。
俺にとってこの恋は一世一代ってやつだったよ。






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -