目が覚めたら、覗き込んでいる蒼い瞳と正面からぶつかった。途端に真っ赤になる顔も、一瞬で耳の先まで毛布に潜り込む光景も何ともいえない既視感だ。

「…トラファルガー」

「………なに」

「おはよう」

「………おはよ」

「なんか前もこのパターンだったな…あと毛布全部持ってくなって言ってんだろ、寒い」

いつ寝たのか全然記憶にない。丸くなったままの塊を軽く叩いて、仕方ないから起きて服着るか、と伸びをしたところでやっと毛布の端がめくられた。
小さい声で呼ばれて、申し訳程度の隙間から手を突っ込んで頭を撫でてやった。耳の毛がやっぱり少し固まってる。

「…ユ…スタス屋」

「どうしたんだよ、起きれそうか?」

「うん……なぁ、お前は…平気か…?」

「何が?」

「…だから、気持ち悪い…とか」

「…あのな、」

「……俺、まだここ居てもいいか?」

ぐす、と鼻を鳴らす音がして、昨日のやり取りは夢だったのかと一瞬真剣に考え込んだ。なんで数時間ほったらかしただけでネガティブに戻ってるんだ。思い出したら赤面するくらい甘やかした気がするのに。

「お前ほんっと手が掛かるな…」

「…ッ、う、」

「とにかく出て来いって、頼むから泣くな」

どうにか毛布を剥がして引っ張り出したトラファルガーは、髪も毛並みもぼさぼさであちこち色々こびり付いてて、いつも綺麗好きな分なんだか拾ってきた野良猫みたいな有様だった。さすがに無茶させすぎたかと心配になったけど、隈は薄くなってるし血色もいい。なのに全然元気な感じがしないのは、びくびくして俺の顔色を窺ってるせいだろう。

「…なんか虐待でもしてたみたいな気分になるから落ち着け。お前、体調は大丈夫なのか?」

「…ん、充分食えた」

「そっか、じゃあとりあえず風呂入るぞ。洗ってやるから」

トラファルガーのもの言いたげな視線を承知で、さっさと起き上がってクローゼットから換えの服を引っ張り出した。

「それから朝飯食おう、何がいい?好きなもん作ってやるよ。昨日夕飯も食い損ねたしな」

「ユ、スタス屋…」

「なぁ、美味かった?」

「え…?」

「昨日の。あれ自体が飯だろ?最後の方もっともっとってねだってたから、いつも小食なのによっぽど美味かったのかなって」

「…馬っ鹿じゃねえの!だ、大体変態くせえんだよお前は…!ねちっこいし…っ、何回やれば気が済むんだ!俺よりよっぽど動物だな!!」

「へぇ…でもお前すっげえよさそうだったけど、人のこと変態呼ばわりできんのか」

「…っ、うっせえ!!」

言葉に詰まったと思ったら、せっかく引っぺがした毛布の中にダイブしてまた頭から丸まってしまった。ちょっと揶揄かいすぎたかもしれない。俺も腹が減ったし、さっさと風呂に入れてドライヤーを掛けてやろうと思ってたのに、これじゃあ朝飯にありつくにはもう少し掛かりそうだった。
着替えとバスタオルをベッドの端に置いて、毛布の小山に覆いかぶさる。途端に緊張して息を詰める気配がした。

「トラファルガー」

「……うるせえ…バカスタス」

「腹減ったらいつでも好きなだけ食わせてやる。もうあんな思いさせねえから」

「………」

「俺のネコなんだろ?一緒にいるの当たり前なのに、妙な遠慮とかすんな。あと勝手に家出計画立てんのもマジで止めろ。迷いネコだってそこらじゅうに張り紙するからな」

「……うん」

「俺のこと好き?」

「……うっさい」

「やっぱ素面は駄目か…昨日はすげえ可愛かったのにな」

また毛布の隙間から手を突っ込んで髪や頬を撫でていると、トラファルガーの体温がどんどん上がっていくのが分かった。手探りで触れた頬がすげえ熱い。不明瞭な小さい唸り声がして、いきなり具合でも悪くなったのかと心配になったところでぎゅっと指先を掴まえられた。

「……大…好き」

「…よく聞こえねえ、もっかい」

「……知るか!」

不機嫌そうな声に苦笑して、なぁ俺も入れて、と多分耳らしいあたりを撫でながら頼むと、しっかり巻き込まれていた毛布の端がそっと放される。トラファルガーを腕の中に引っ張り込んで頭から毛布を被り直した。柔らかい毛布に包まれたベッドの上で、服も着ないまま互いの体温を分け合ってると、もうここから出たくなくなるから少し困る。空腹と幸福感が混じり合って、まぁいいかという気分になってしまう。
「俺のこと好き?」耳の付け根をやさしく揉みながらねだったら、トラファルガーがもう一度、大好き、と呟いて脚を絡めてきた。

溶けそうに熱い身体を抱き締めながら、百年だってこうしていられる気がした。






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