翌日、ローが起きたのはもう昼に近い時間だった。
部屋いっぱいに差し込む日の光に、昨日あれほど寝たのに、とすっきりした頭で自分に呆れ返る。
キッドの方はとうに起きていたようだが、ベッドに入ったまま昨日とは違う雑誌を読んでいた。今しがた風呂に入ったのか、水気を残した髪の赤色がいつもより深い。
ローが眼を覚ましてもぞもぞ動くのに気付き、毛布をめくってまた額に手を当ててくる。

「ん…熱下がったな」

「…ユースタ、」

「駄目、帰さねえから」

もう何度目か分からない懇願をローが言い終わる前に釘を刺してしまう。
ぐっと言葉に詰まったローに、もうシャワー使っていいよ、と言い残してキッドは大きく伸びをしながら部屋を出て行った。




シャワーを浴び終えて昼食を摂った後、することがなくなってひどく居心地の悪そうなローを尻目に、キッドはレンタルショップの袋から数枚のDVDを取り出し、どれがいい?などと暢気に訊ねていた。そのくせ答えを待たず、さっさとそのうちの一枚をセットしてしまう。テーブルに放りされたパッケージは、ローも興味を持っていた少し前の新作だった。

「それ見たいって前に言ってただろ」

キッドは何でもないことのように言うが、ロー自身はそんな発言の記憶など曖昧なものだった。言った、のかもしれない。キッドとはよく取り留めのない話もしていたから、そんな内容があっても不思議じゃない。
「よく覚えてるな」ローは純粋に感心したのだが、「先生のことだから」とさらりと返されて、会話の方向を間違ったと後悔した。
本当は、朝起きたら昨日までのことは全部夢で、自宅のマンションで自分のベッドで寝ているんじゃないかと少しだけ期待していた。
できることなら全部なかったことにしたいのに、キッドはどうしてもそれを許してくれない。

「…センセ、そんなに警戒されると期待に応えたくなるんだけど」

「……!」

ソファの一番端に座りクッションを抱えたまま、せっかくの映画にも気がそぞろのローに、キッドは画面から目を離さないままぼそりと呟いた。
途端にびくりと大げさに肩を跳ねさせ、隅で小さくなってしまうローを横目で見て、何ともいえない気分になる。半分本気で半分冗談だったが、今のローには笑い事でないのも承知だった。分かっているのにもっと意地の悪いことを言ってみたくなるのだ。部屋の扉側にキッドが座っているため、逃げ場もないことに今更気付いたのか、ローは可哀想なくらいうろたえていた。
もう少し眺めていたい気もしたが、仕方ないな、とテレビを消す。
なにせ一度泣き出したらなかなか止まらないのは、この二日で目の当たりにしてよく分かっていた。

「集中できねえみたいだから、また今度にするか。代わりに勉強教えて」

「え、…え?勉強…?」

「先生の教科じゃねえけど正直全っ然分かんねえから、教えてくれないと課題終わんねえ」

「…お前な、だからあれほどちゃんと授業に出ろって!」

「毎回捜しに来てくれたらちゃんと出る」

ローの苦言を右から左に流しながら、テーブルの端に無造作に重ねられていた数枚のプリントとテキストを引き寄せる。
確か明後日までだった、と張本人は涼しい顔をしているが、一文字も書き込まれていない白紙のままの課題を見たローは眉を吊り上げて、ひとしきり説教したいのを我慢するように唇を噛んでいる。

「分かった。教えてやるからしっかり聞けよ、絶対寝るなよ!」

「一対一なのに寝るって、俺どんだけ図太いんだよ。大体、いつもだって先生の授業は真面目に聞いてるじゃねえか」

「そ…れはそうだけど」

日頃のサボり癖がたたって、課題の範囲よりもう少し前から教えければいけないと悟ったローは、キッドを隣に座らせ、板書の要領でノートに解説を書き込みながら本格的に授業を始めた。
今日中に何がなんでも理解させる、ときっぱり言い切ったローに、キッドは心持ちげんなりした顔で手の中のシャープペンシルを回している。どうやら一種の地雷を踏んだらしい。真剣な表情で教科書をめくって何やらぶつぶつ言っている横顔を眺めて、まぁ元気になったならいいか、と思いなおす。

「…担当教科でもねえのによくこんなの分かるな」

「教師なめんな。それに俺はもともと理系得意だしな」

なるべく分かり易くと心を砕きながら丁寧に教えれば、キッドは端からどんどん吸収していった。素行は褒められたものではないが、頭の出来は悪くないのだ。教科書を噛み砕いて説明し、その場で作ったいくつかの例題を解かせ、課題プリントの空欄が埋まっていくのを見るのはロー自身気持ちがいい。
なにより、おかしな方向に捻じ曲がっていた関係が、一時的にしろ教師と生徒という真っ当なものに戻ったことに心底安堵していた。




「…終わった。課題、これで全部だ」

「偉いぞ、よく頑張ったなユースタス屋!ちょっと先取りして予習もできたし、せっかくやったんだからこの次の授業はちゃんと出るんだぞ」

途中に二度ほど休憩を挟み、昼過ぎに始めた家庭教師が終わったのはすっかり日が暮れてからだった。
キッドは座りっぱなしで凝り固まった身体を思い切り伸ばし、疲れた、と開いたままの教科書に突っ伏した。

「まさか本当に全部やるとは思わなかった…」

「俺だって今日中に済ませるのは結構ギリギリだと思ってたけど、ユースタス屋はやればできる子だからな」

まるで自分の事のように嬉しそうなローは機嫌よくにこにこと笑っている。
その顔が見られただけで報われたと思ってしまうのだから、大概重症だという自覚はあった。

「なぁ先生、俺すっげえ頑張ったと思うんだけど」

「うん、本当に偉いぞ」

「じゃあご褒美ちょうだい」

「ご褒美?」

意図が分からずに、ひとつ瞬いて軽く首を傾げたローの腕を取る。頭の切り替えができていないのか、まったく暢気なものだった。採点と注釈用に使っていた赤ペンを握ったまま、手首の細さを確かめるように回されたキッドの指先を不思議そうに見ている。
「…先生って集中力はあっても、警戒心は続かねえのな」呆れたような声と、あっという間に組み敷かれた体勢を理解してようやく、ローの顔から一気に血の気が引いた。

「や、やだっ…!やめろ、やだ、ユースタス屋…!」

「だからご褒美ちょうだいって。痛いことしねえから。俺はただ先生に触りてえの」

首筋に顔を埋めるとローが息を呑んで固まった。
薄い皮膚を軽く噛み、吸い上げれば簡単に跡が付く。必死に押し返そうとする両腕は一纏めにして頭上で押さえつけた。「大人しくして、センセ。また縛られるのイヤだろ?」一昨日、拘束されたまま暴れたせいで少し擦り剥けた手首の皮膚が、まだ痛々しい色を残している。
片手で服をめくりあげ、柔らかいままの乳首をぎゅっと押し潰すと、大きく身を震わせて蒼い瞳がみるみる涙の海に沈んでいく。腫れるほど苛め抜かれたことを覚えているのか、指先で突起を少し転がしただけで芯を持って、鼻に抜けるような声が洩れた。それでもまだ懸命に暴れようとする脚を割り開き、間に膝を入れてぐりぐりと股間を刺激してやった。ローが嫌がって身を捩れば、逆に自分から腰を押し付けてねだるような形になる。
喉の奥で笑いを噛み殺したキッドに、羞恥のあまりか頬を真っ赤に上気させてローは少しでも身体を離そうとしたが徒労に終わった。
つんと尖った乳首に歯を立てられながら、ジーンズを肌蹴て掌で性器を揉みしだかれた。下着越しに乱暴と感じるぎりぎりの荒さで刺激され、掌は緩急をつけて性器を圧迫しながら、指先でゆるゆると円を描くように布の上から後孔を探られる。身動きの取れない不自由さと、上にも下にもひっきりなしに与えられる濁った快感に、ローの性器はとろとろとあたたかい体液を零していた。

「嫌がってたくせに、先生やらしい」

すっかり息が上がっているのに、なおも否定するように首を振る頑なさが可愛いと思った。
重たく濡れて、ぐち、と湿った音を立て始めた下着ごと穿いていたジーンズを引き抜き、遠くへ放り投げる。両腕を押さえつけていた手を離しても、胸をせわしなく上下させて潤んだ目でキッドを見上げるばかりだった。
ローの身体をひっくり返してうつ伏せの体勢を取らせ、腰だけを高く持ち上げる。

「脚、このまま閉じて。腰落とさないでな?」

「や…ぁっ…い、たいコト…しねえって言った…!」

「痛くなんかしねえよ、大丈夫だから」

浮き上がる肩甲骨の形を確かめるように舌でなぞると、びくびく身体を震わせて床に爪が立てられた。
閉じさせた太腿の間に自身の性器を挟み込み、腰を抑えて固定する。
「ユ、スタス…屋?」不安そうな声で振り向くローを安心させるようにひとつ口付けて、キッドはなめらかな内腿の肉に性器を擦りつけた。
俗に素股と呼ばれる行為だと気付いたローが目を見開く。咄嗟に逃げようとずり上がった身体を引き戻して、キッドは肌がぶつかって音を立てるほど激しく挿送を繰り返した。

「ぁっ、あ、う…ユ、スタス…屋、ぁ…っ…」

「そのまま緩めんなよ…腰ももう少し引いて」

足の間から出入りする熱の塊がローの性器に擦れて、身体が崩れ落ちそうになった。立てていた膝がガクガク震え、ほとんどキッドの手で腰だけを支えられている状態だった。混乱した頭はまともな思考を許さず、ただ言われるままに萎えた足を懸命に閉じようとする。実際に貫かれているわけではないのに犯されている感覚がそのままあって、ローは涙をぼろぼろ零しながら壊れたように喘いだ。
挟み込んだキッドの熱が体積を増し、腰を掴む指先がきつく食い込む。片手が前に回され、ぐっしょり濡れているローの性器が掌に握り込まれた。浮き上がった血管を潰すように弄られて、同時にはくはくと開閉する尿道を指の腹で捏ねられ、何も考えられなくなる。白い頭の隅で、爆発する、とぼんやりした光が明滅する。
キッドの動きが早まって数度大きく揺さぶられた後に、息を詰める気配がして一瞬動きが止まった。
勢いよく溢れた精液が上半身を崩したローの胸元まで汚し、ローもまた床を引っ掻いてどろどろに融けた熱を吐き出そうとした。
しかし、寸前でキッドに性器の根元を強く押さえつけられる。

「ッ――…!…ふ、あ…ぁ、や、ユ…スタ…はな、離して、」

酸素が一気に奪われたみたいに肺が軋んだ。
今にも達しようとした瞬間に縛められた身体は、限界まで膨れ上がった快感を逃がす術を知らずに、行き場を失くした熱の塊が逆流して気が狂いそうになる。上手く声が出なくて細かい痙攣を繰り返しながら必死に懇願するも、ローの身体を汚すだけ汚してキッドは素知らぬ顔で性器を引き抜いてしまった。

「ごめんな。今イっちまうと、この後辛いかもしれねえから」

ぺったりと伏せた胸と床の間で白濁が滑る。痛いほどに尖りきった乳首がぬめる床に擦られて、ローは声もなく息を乱した。

「先生、中に指だけ挿れてもいい?」

「だ…だめ、も…やだ、イきた…っ…」

「ちょっとだけだから、な?」

そしたらちゃんとイかせてあげるから。
まるで悪魔の囁きのようなことを吹き込んで、ローの承諾を待たずに白濁をたっぷり掬い取った指が後孔に潜り込んだ。
ほんの爪先だけを沈めて少しずつほぐし、精液の滑りを借りてゆっくりと入ってくる。
関節の形まで分かるんじゃないかと思うくらい締め付けていたローも、前を押さえつけていた指を外され、性器を緩慢に刺激されながら後孔を探られているうちに、すっかり身体を弛緩させて焦点の合わない瞳で喘ぐばかりになっていた。キッドの長い指が根元まで押し込まれ、狭い胎内を掻き分けて腹の奥の一点を掠めると、腰がびくびく震えて辛うじて立てていた膝の力が完全に抜けた。

「センセ、気持ちイイ?何かとろんってした顔してる」

「…っ、ぅ…して、な…」

「あー…はいはい、分かったから泣くなって」

いつの間にか二本に増えた指を咥え込んで、おそらくは無意識に腰が揺れている。
自分を支えていられないローを抱き上げ、ぐったりしている身体を胸に凭れかからせた。背中から抱え込み、脚を大きく割って後ろを指が出入りしても、まるで痛そうな素振りは見えない。腕の中でひたすら気持ち良さそうに荒い息をついているローは、飲み込めない唾液で口元をべたべたに汚して虚ろな視線を彷徨わせていた。
柔らかくほぐれた後孔を確認して、キッドは汗や涙に濡れたローの頬を舐めてキスを落とす。
「よく頑張ったな。もうイっちまおうか?」深い位置にある前立腺を引っ掻いて問いかければ、理解しているのかいないのか、ローはこくこく頷いて抱き寄せているキッドの腕にしがみついた。
無理やり我慢を強いていたせいか、吐き出される白濁に勢いはない。
不規則な強弱をつけながら時間をかけて震える性器を伝い落ちていく感覚は、真綿で締められるような経験したことのない絶頂感で、ローは力なく頭を振ってかすかな泣き声を上げた。




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