ローが落ち着くのを待ってキッドは備え付けのペーパーで汚れた下肢を拭い、服を整えて手を洗ったあと、濡らしたハンカチで涙の跡を残したローの顔まできちんと拭ってトイレから出た。
甲斐甲斐しく世話を焼かれたからといって許せるわけもなかったが、「家庭訪問、やめる?」と聞いてきたキッドに毅然と首を振る。約束を取り付けたのはこっちなのに、一方的に反故にできるはずがなかった。
性懲りもなく手を繋ごうとするキッドを振り払い、一歩離れて後ろを付いていった先は、駅から10分ほどの閑静な住宅街だった。
マンションの一つに入り、ロビーでエレベーターを待つ間も乗ってからも、ローは一言も口をきかない。標準より少し広いエレベーターの中でも、めいいっぱい距離を置いて端に立っている。
もちろん怒っているのだろうが、それ以上にキッドにどう接すればいいか分からないと言った風で、どこか怯えた小動物にも見える様子にキッドは困ったなぁと天井を仰いだ。とはいえキッドが、あからさまに避けられて困った、などとしおらしい思考を持つわけもなく、警戒心丸出しのローがかわいくてしかたないのだ。
エレベーターを降りてたどり着いた一室をカードキーで開け、さっさと靴を脱ぎながらキッドはローを促した。

「ほら先生、上がって。誰もいないから遠慮すんなよ」

「…え…?ちょっと待てよ、誰もいないって…親御さんは…!?だって今日訪問するって…!」

驚いて立ち尽くしたまま抗議の声を上げるローの腕を掴んで引っ張り込む。
思いがけず強い力にローがよろけた隙に扉を閉め、しっかりとチェーンを掛けた。

「うちの親、いま海外だし。いつもふらっと出かけちまうんだよな。あ、一応先生が来るってことは電話したぞ?でも今週とか来週じゃ帰ってこれないって。いつものパターンだと最低でも三ヶ月後だろうな」

「な…お前そんなこと一言も…!」

「だから別にいつでも一緒っていったじゃん」

細い手首を掴んで引っ張るとローは身を強張らせて抵抗したが、構わずに半ば引きずるようにリビングに連れて行く。「ユースタス屋…痛えって!」わめくローをソファに突き飛ばし、大股で窓際に寄ってカーテンを閉めた。
一瞬で薄暗くなった室内に、ローが怯えたように息を呑む。

「俺が家庭訪問やめるか聞いたときに、素直に帰るべきだったな。もう遅いけど」

「待…てよ、ユースタス屋!今日のお前おかしいぞ!何でこんなことばっかり…」

ローが喋り終えるのを待たず、薄い肩をソファに押さえつけて唇を塞いだ。
間近で見開かれた蒼い瞳が甘そうで、思わず指先で目許をなぞるとギュッと目を閉じられる。震える睫毛に涙の粒が滲むのをうっとりと眺め、できるだけ優しく頭を撫でた。

「好きなだけ泣き喚いていいよ、先生。ここ防音はちゃんとしてるから」



カーテンの隙間から差し込んでいた光がいつの間にかすっかり消え失せ、キッドは手を伸ばしてサイドテーブルに置かれたスタンドランプを点けた。
橙色の柔らかい光が暗くなった室内を照らす。部屋全体から見れば明るいとは言いがたい光量だったが、ソファの周辺が照らせればキッドにとっては充分だった。

「…ッ、ひ…や、ぁっ…!」

「あ、ごめん。眩しかったか?」

気遣わしげな謝罪を寄越し、キッドは組み敷いたローの顔を覗きこむ。
しかし悲鳴が上がったのは光が目を刺したわけではなく、キッドが無理に身じろいだせいだと分かっていた。怒張したキッドのものを後孔にねじ込まれ、ローは息も絶え絶えに喘いでいた。

「やっぱり痛い?ちゃんと慣らしたつもりだけど」

「あ…ぁ、ふ…や、だぁ……ユー…スタス、屋、」

「前、触ってやるから泣くなよ先生」

ぐっしょりと濡れて震えている性器を掌で包むと、ローの腰が震えてキッドを咥え込んだ孔がギュウと狭くなった。その感覚にまたローの腰が跳ね、痛みと性器を弄られる快感に壊れたように喘ぐ。さっきからその繰り返しだ。
キッドに押し倒されてからもローは懸命に暴れたが、上から圧し掛かるように押さえつけられたせいもあり、力で振り切ることは叶わなかった。乱暴に衣服を剥がれ、引き抜いたネクタイで両手を一纏めに括られる。胸元に吸い付かれて全身が総毛立った。柔らかい乳首をしつこく舐められて時折噛まれ、電車でされたように性器をぐちぐちと捏ねられれば、イヤだと喚きながらも不自由な身体からは確実に力が抜けていった。
ユースタス屋、と必死にキッドを呼ぶと、その度に手を止めてローの顔を覗きこむ。こんな無体を強いているとは思えないくらい優しい顔で、頬といわず唇といわずキスの雨を降らせてきた。それからすぐに行為に戻ってしまうのだ。
せめてもの抵抗に唇を噛んで声を殺せば、爪を立てて敏感になった場所に容赦ない痛みを与えられ、素直に喘げばやさしく蕩けそうな手付きで触れられる。飴と鞭のようなそれを、頭は否定しながらも身体は貪欲に学習していく。
今日二度目の射精を迎えるころには、ここからは逃げられないとローにも分かってきた。

「先生、どう?少しはマシになったか?」

酷くしたいわけじゃねえんだけど。
たっぷりのローションを垂らして指と舌で念入りにほぐされたが、元々は排泄器官でしかないそこがキッドを受け入れるのは無理があった。
辛うじて裂けなかっただけでも幸運だったが、ローは見開いた両目からぼろぼろと涙を零して、恥も外聞もなく泣き喚いて悲鳴を上げた。身体を真っ二つに引き裂かれていくような激痛だけが頭を支配していた。ろくに動かない身体でめちゃくちゃに暴れ、括られた両手首の皮膚が擦り切れて血が滲むのにも気付かなかった。いたい、こわい、くるしい。痛みと恐怖にガチガチと歯の根が合わないローを抱きしめ、キッドは強すぎて苦痛でしかない締め付けに汗を浮かべながら、子供のように泣きじゃくる背中を撫で続けた。
互いに苦しいばかりだったが、ローの胎内に収めた自身を抜くことはせず、甘やかし宥めすかしながら少しだけ動いて、ローが痛みに泣けばまた動きを止めて。気の遠くなるような時間を掛けて、キッドはローの身体を慣らしていった。
ローが気持ちよさそうな反応を示したところばかりを撫でて舐められ、少しずつ身体の中を探られて、ようやく苦痛の中に幾らかの快感を拾いはじめた頃には、とうに日は暮れて部屋の中は真っ暗だった。
オレンジ色の室内灯に浮かび上がるローの身体は陰影が強調され、血色の悪い肌も今ばかりはすっかり上気している。

「今日はもう二回イったんだっけ、もう一回くらい頑張れそう?」

「…む、り…こんな、の…苦しいばっか、だろ…も、やだぁ…!」

「でも先生の勃ってる…俺ももうちょっとでイけそうだから、もう少し付き合ってな?そしたら休ませてやるから」

ぐちゅ、と水音を立ててキッドは性器を抜き差しする。最初に比べたら随分スムーズに動けるようになった。
結合部も革張りのソファも零れたローションや体液でドロドロに濡れていて、ましてや全身汗びっしょりのローはベタベタ張り付く革の感触にことさら気持ち悪そうにぐずったが、あとで風呂入れてやるから、と慰めになっていない言葉で宥めてキスを落とした。痛いことをしすぎたせいか、キスのひとつくらいには拒否を示さなくなったローに少し嬉しくなる。

「センセ、力抜いて。手も解いてやるから俺に掴まってろ。すぐ済むから」

「やだ、も…痛い、から…」

「大丈夫だって。さっきから動いても気持ち良さそうな顔してる。ここもビクビクしてんじゃん、出したいだろ?」

拘束していたネクタイを解き、手を取って促すとローは案外素直にしがみついてきた。
「ゆ、すたす屋…痛いの、やだ…」ぎゅっとキッドの肩に顔を埋めて駄々を捏ねるように首を振るローの頭を撫で、ゆっくりと埋めた性器を引き抜いてまた収めると、ローは背筋を震わせて熱っぽい溜息を吐いた。ローの潤んだ性器を掌全体で擦りながらだんだんと腰の動きを早めていくと、堪えきれなくなったように途切れがちな甘い声がこぼれる。長い時間我慢を強いられていたキッドの限界はすぐに訪れた。最後に思い切りローの身体を突き上げて、名残惜しさを殺しながらあたたかい胎内を抜け出し、組み敷いた腹の上に精液を注いだ。量の多い白濁が胸元まで飛び散る感覚に、ローは意味をなさない声を上げてしがみつく力を強くする。震えている薄い身体を抱き寄せ、下肢を弄りながら赤く染まった形のいい耳朶を食んだ。
いつもの「先生」ではなく「ロー」と初めて名を呼ぶと、ローもまた息を呑んでキッドの手の中で吐精した。




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