(捨て犬キッド×飼い主ローさん。獣耳じゃなくてどっちも人間)
(キッドさんはxxxHolicで言う所のひまわりちゃんみたいな体質。周りを色々不幸にする)
(ローさんは百目鬼くんのような感じで不幸体質の影響を受けない)
(オークションとかしてますが、原作軸ではなくパラレルです)
(正直いろいろ詰め込みすぎました)





今までに二人、『ご主人様』という奴がいた。

一人目は特筆することもない、至って普通の飼い主だった。
俺を買ったのはたしか、毛並みが良いから、という理由だったと思う。確かに周りに同じ毛色の犬はいなかったから、珍しいことには違いないんだろう。
首輪でつながれ、部屋を一つと据え付けのでかいケージにベッドに食器に玩具類。そいつはごくごく普通に俺を犬として扱った。反抗すれば躾をされ、従順にしていれば褒められた。もっとも俺が従順だったことなんて、それこそ疲労と痛みでろくに動けないときくらいだったように思う。
その主人は気が向いたときに俺に構うだけで、あまり過度な干渉はしてこなかったが、言葉を喋るなと言うのが絶対のルールだった。背けば厳しく罰された。犬のくせに何故自分が人間だなどと勘違いしているんだ、と呆れ果てたように溜息を吐かれた。四つん這いになれとは言われなかったが、どのみち鎖は俺が二本足で立って歩くには短すぎる。動き回ろうと思えば自然床を這うしかなかった。
飼い主は反抗的な駄犬にそれなりに手を焼き、それなりに可愛がり、毛並みが気に入ったとブラシを通し、そしてある日突然飽きたと言い放った。
これはもういい、新しいのを買いに行こう。そう言って馬鹿みてえに豪華な階段を下りて玄関に向かう途中、踊り場に掛かった馬鹿みてえにでかい額縁入りの絵が倒れてきて下敷きになったと聞いた。

それから俺は元いたヒューマンショップとやらに戻され、再びオークションに掛けられた。

二人目はこれまた特筆することもない、至って普通のサディストだった。
救いといえばそいつが俺に突っ込む趣味は辛うじてなかったことくらいだが(痛めつけるのは図体のでかい犬、突っ込むのは華奢な犬が良いと嘯いた)、堪ったものではないから隙をみて逃げ出した。
運が良かったのだと思う。その日、首輪は鎖から外されていた。髪を掴まれ部屋中を引きずりまわされ、逆らうとその場で蹴り飛ばされた。腹につま先がめり込み、耐え切れずに嘔吐するとさらに罵倒され、汚れたからとバスタブに頭から突っ込まれる。苦しくて暴れればまた始めからの繰り返しだ。適当な所でうずくまって震えてみせれば満足するのかもしれなかったが、抵抗を辞めないのはもはや意地のようなものだった。
俺を散々痛めつけた後、よほど高揚していたのか、それとも動けるわけがないと高を括ったのか、部屋に鍵を掛け忘れたのだ。いつもはガチャンガチャンとご丁寧にふたつも掛かる地獄みたいな音がしなかった。信じられない気持ちで息を殺して、そいつがすぐには戻ってこないと分かった途端に跳ね起きた。真夜中で人気が無かったことも幸いした。
鉛のような身体を引きずって、無駄に広い屋敷の中をとにかく人の気配のしないほうへと闇雲に進んでいった。灯りを点けるわけにもいかず、ほとんど手探りだ。玄関は無理だと分かっていたから、どうにか一階まで降りて、転がり込んだ部屋の窓から外に出た。
そしてようやく痛みに萎えた足でやわらかい草を踏んだとき、何もかも忘れて歓声の一つも上げたくなったその瞬間に、ものすごい衝撃と熱の塊に吹き飛ばされた。
ぐらぐらと揺れる頭はまるで事態を把握していない。焼け付くような肩に視線を落とすと、無残に肉を抉って開いた穴からこぽこぽと血が溢れていた。なんで、と呟いて身を起こそうとすると、何かが破裂するような音と共に今度は脇腹の肉が弾けた。
撃たれた、と理解したのはそれからたっぷり三秒経ってからで、痛みを認識すると同時に空っぽの胃が痙攣してその場で嘔吐した。
ガンガンと殴りつけられるように痛みを訴える頭を叱咤して上を仰げば、三階の窓に口元を吊り上げた飼い主が覗いていた。右手に黒々としたものを握って、先端を俺に向けている。逃げなければ、と思うのに、指先が土を掻くだけで身体がろくに動かない。
開け放った窓の向こうで、忌々しい口元が更に吊り上がる。駄犬が。そう呟いてゆっくりとトリガーが引かれるのを、霞みかけているはずの視界でやけに鮮明に見た。

そして結論から言うと、死んだのは俺じゃなくて飼い主のほうだった。
引鉄を引いた瞬間、手元で銃が暴発して、窓際に立っていた男は体勢を崩して三階から転落した。運が良ければ死ななかったのかもしれないが、とりあえずそいつは運が悪かったんだろう。

それから俺は元いたヒューマンショップとやらに戻され、三度オークションに掛けられた。




「のはいいんだが、不吉だなんだと買い手が付かなくてな」

趣味の悪い巨大なピンクの塊が、声の調子だけは困ったと言った風ににやにや笑っていた。

「へえ、そりゃあ珍しい。お前のとこの客ならさぞかし悪趣味で悪食なのが揃っているだろうに」

「フッフフ…あんまり褒めるなよ、ロー。まあ確かにどこに出しても恥ずかしくない物好きどもだからな、曰く付きだって大喜びで値をつけ始めたが、さすがに競ってる最中にシャンデリアが降ってきたときは阿鼻叫喚だったぜ」

「それもこいつの所為なのか?」

「馬鹿か!設備管理を怠ったか、アタッチメントの不具合に決まってる」

「それにしても良いタイミングには違いないな…それで物好きどもは尻尾巻いて逃げ出したってか」

「口直しも兼ねて場所を移した。まあ、そいつの買い手自体はゼロって訳じゃねえ、だが一人二人の客に残りは怯えたチキンどもで競りが盛り上がるか?あんな白けたオークションも珍しかったぜ」

「なんだよ、一応買い手は付いたんじゃねえか。なんで引き渡さねえんだ」

「連れて帰った車が事故を起こしてそこそこ重症だとよ。こいつは見ての通り、掠り傷だが」

「…わぁお」

派手なピンクの対面でどうでもよさそうに話を聞いていた男は、そこで初めてまじまじと俺を見た。室内だというのに目深に帽子を被っていて、表情は口元でしか分からなかったが、どうやら面白がっているようだった。頭でも撫でたそうに手を伸ばすも。中途半端な距離があるせいで届かない。だいたい俺は触られるのが大嫌いで反射的に後ずさったら、それ以上追いかけるでもなくあっさりと腕は引っ込んだ。

「そもそも普段からちょっとした妙な出来事が続いたらしい。こいつに触れたり、いわゆる『躾』の後なんか特にな。軽い怪我だの、とんでもねえ場所から物が落ちてきたり、上手くいってた商談が突然潰れたり、あとはなんだったか…まぁそいつの所為か自分の無能さか、どうとでも取れる程度のことだが、どうも不幸を呼ぶんじゃねえかって評判になったんだよ」

「ふぅん…で、ドフラミンゴ。なんだって俺のところに連れてくるんだよ」

「お前こういう訳分かんねえ珍しいもん好きだろ?プレゼントだ、有り難く受け取れ」

「…ちなみに事故起こしたのっていつだ?」

「つい半日前だな。こんな見た目からして不吉な犬要らん!ってえらい剣幕だったぜ?自分で買ったくせに、あの吼えっぷりは大したもんだった。どっちが犬だかなあ」

「引き取ったその足で連れてきたんだな…要するに処分するのが面倒だったんだろ」

「フッフッフ、底辺からも転げ落ちた捨て犬だ。可哀想じゃねえか、せいぜい可愛がってやれよ」

「まぁいい、珍しいことには違いないしな。良い子にするならしばらく置いてやるよ。こいつの名前は?」

「そんなもん俺が知るか!本人に聞け、人語が喋れたらの話だがな」




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