(現パロで女装ローさん)
(篁様お誕生日おめでとうございます!)




今すぐこいつの頭をかち割ってやりたい。
そう言わんばかりの表情でローは散らかったベッドとキッドの顔を交互に眺めては、衝動を耐えるように唇を噛み締めていた。
どこから調達してきたものか、黒いセーラー服に、これまた黒地をメインにしたクラシカルなメイド服、対照的に真っ白なナース服が無造作に放り投げられている。

「さっさと選べよ」

「…ユースタス屋…お前、頭おかしいんじゃねえの」

「何でもするって言ったのはてめえだろ」

連続三回。タイミングの悪いことにキッドと出かけるはずの日にばかり急な予定が入って、もう三回もローは約束を取り消し続けていた。仕方ねえよ、とキッドは笑って許したけれど、互いに忙しい身でどれほど頑張って時間を捻出してくれたのか知っている。おまけにこの前は少し早いキッドの誕生祝いをするはずだったのだ。買い物をして食事をして、小さなケーキでも買って帰って。ささやかだけど指折り数えて楽しみにしていた計画が無粋な横槍で呆気なく潰れてしまったときには、さしものローも電話口で思わず涙声になった。
怒りもせずに逆に必死で慰めるキッドに、埋め合わせは絶対すると宣言したのが一週間前。その間に誕生日は過ぎてしまっていて、ようやく顔をあわせた今日、今更だけどちゃんと祝い直そうと提案したローに、プレゼントが欲しいと満面の笑みでねだったのがほんの二十分前だった。少しだけ嫌な予感がしたけれど先日の負い目もあって、何だってしてやるし買ってやると言い切ったローはすぐに自分の発言を後悔した。

「AV欲しいんだけど」

「…え、なに?A、V…?…それ、俺が買ってプレゼントするの?」

「いや買うっていうか、お前の出てるAVが欲しい」

「……は?」

「何でもしてくれるんだろ?」

そして冒頭に戻る。にこやかに渡された大きな紙袋をひっくり返すと、新品の女物が三着も出てきたわけだ。セーラー服にメイドにナース。なるほど、いかにもAVだとローのこめかみが引き攣る。埋め合わせを約束した時点で見越していたのだろう、なんとも準備のいい話だった。

「好きなのでいいから早く選べって。まさか今更撤回とか言わねえよな?」

「それ、は…何でもって言ったけど…!だからって何だよ俺のAVって!しかも女装って!!」

「決められねえならじゃあ、絶対着たくねえのどれ?」

「…どれもやだけど…ナース服。丈がありえねえ」

「じゃあナースで決まりな。ほら、さっさと着替えろ」

「お前…!!」

セーラー服とメイド服を部屋の隅に放り、短いワンピースだけが手元に残される。白い布地を握り締めて射殺しそうな目で睨みつけてくるローを、キッドは至極楽しそうに眺めていた。ベッドの上にへたり込むローと、腕組みをして壁にもたれかかっているキッドと。数分に及ぶ無言のせめぎ合いは、ふと何かを思い出したようにクローゼットを開けたキッドによって中断された。何やらごそごそ漁っていたかと思うと、小さな包みを引っ張り出して放られる。

「トラファルガー、先にこれも着けろよ」

トサッとベッドに落ちた真新しい紙袋はピンクと黒のストライプ柄で、中には更に黒いリボンの掛けられた袋が入っていた。なんとも可愛らしいそれに嫌な予感しかしないローは、爆発物にでも触れるように恐る恐る包装を解いて中身を覗き込む。途端に無言で固まった。
袋の中にはきちんと畳まれた白黒のレースと、所々にピンク色の細いリボンが見え隠れしている。
震える手で引っ張り出したそれをまじまじと眺め、ギギギ、と音がしそうなほどぎこちなくキッドを振り向くが、元凶の男はにっこりと笑うばかりだった。

「あっ…あた、頭おかしいんじゃねえのか!!」

「スカート短いんだから、下着が男物じゃ隠れねえだろうが。それとも何も穿かねえつもりか?それはそれで見えそうだけど」

「だ、だったら何で上もあるんだよ!下だけでいいだろ!!」

「何でってセットで売ってたから。なんかカップの中にジェルとか詰まってるらしいぞ、頑張れば胸作れるんじゃねえ?」

「作ってたまるかぁああ!!」

袋ごとランジェリーを鷲掴みにして渾身の力でキッドに投げつけるが、あっさりと避けられて壁にぶつかっただけだった。ジェルが何たらと言っていたせいか、やけに重い音を立てて足元に落ちたレースとリボンの塊は悪びれもなく拾い上げられ、再び手元に返される。

「…してくれねえの?お前が甘やかしてくれるなんて滅多にねえから、楽しみにしてたのにな…」

「だってこんなっ…下着もナース服も、俺が着たって気持ち悪いだけだろ!して欲しいことだったらもっと他に、」

「俺はどうしてもコレ着たお前が見たい」

まっすぐ見据えてくる視線はあくまでも真剣で、一体自分たちは何を真面目に争っているんだろうかとローはいっそ泣き出したい気分だった。
確かに墓穴を掘ったのは自分だったかもしれない、けれど出来ることと出来ないことがある。そう思うのに、少し拗ねたような表情で無言の訴えを寄越すキッドを見ていると、拒絶や抵抗といった砦がずるずる崩れていく。普段はローのほうが甘やかされてばかりだからか、こうして逆の立場に回られるとひどく弱いのだ。嫌だという気持ちと、きいてやりたい思いが天秤をぐらぐら揺らす。「一回だけだから、なぁ、トラファルガー」子供が駄々をこねるような声でねだられ、ついに折れて頷いてしまった。

「…分かっ、た…でもほんとに今回だけだからな!」

隣の部屋で着替えてくると訴えても、全部ここでしろ、とベッドの上に戻された。
着ている服を脱ぐ間もキッドの視線は一向に外れない。これもあらかじめ用意していたのだろう、小型のハンディカムを向けられ、抗議の言葉を飲み込むのが精一杯だった。気恥ずかしい思いでパーカーとジーンズを脱ぎ捨て、白いナース服を掴むとやんわりと制止される。先にこっち、と無造作に置いてあるランジェリーを指差されて、どうしょうもない羞恥に顔が熱くなった。

「ユ、スタス屋、その下着…上はほんとに勘弁しろ、無理…」

「えー…わりとシンプルなの選んだし、お前ならいけると思うけど」

「絶対それだけはイヤだ!下はちゃんと穿くから…頼むからそれで我慢しろ」

「しょうがねえなぁ」

「……穿き換えるからあっち向けよ」

「駄目、妥協してんだからそれくらい見せろ」

そんなことを言われても、カメラを向けられながら堂々と全裸になれるほどローの神経は太くなかった。途方に暮れて固まっている姿を見かねてか、キッドはビデオカメラを録画モードのままサイドテーブルに置き、床に膝を付いてローの下着に手を掛けた。身体ごとカメラの方を向かされ、腰を浮かせるよう促される。いやだと喉元まで出掛かったが、キッドの手を拒めば自分で着替えるしかなくなるのだ。下着を脱がされて黒地に白い幅広のレースが合わさった女物に換えられ、袋に一緒に入っていたガーターベルトと太腿までのストッキングまで穿かされた。ナース服を羽織らされてボタンをひとつひとつ留める間もキッドはずっと床に跪いたままで、まるで傅かれているかのような錯覚さえする。この行為も全部あの小さなカメラに収まっているのだと思うと、今すぐこの部屋から逃げ出したい気分だった。
キッドは素知らぬ顔で最後に白いキャップをヘアピンで固定して、着替えの終わったローを抱え上げ、枕をクッションに壁にもたれさせた。その正面に座って置きっぱなしにしていたビデオカメラを取り上げると、ローがびくりと震えて後ずさろうとした。

「そのまま膝立てて両脚開け」

「…で…できるか、こんな短いのに!」

「見えなきゃ意味ねえだろ。脚開いてこのまま自分でしてみろよ」

「自分で…って」

「見ててやるから、ここ好きなように触って」

閉じた膝を無理やり割って指先でレース越しに下肢をなぞり、真っ赤な顔で必死にスカートの裾を下ろそうとするローにキスをする。薄い唇に噛み付き、逃げる舌を引きずり出して何度も擦り合わせると、触れている手の中で熱が膨れて薄い下着がわずかに湿り気を帯びるのが分かった。ローの手をとってそこに触れさせもう一度促すと、伏せた瞳に涙を溜めながらおずおずと指先が動き出す。
身体を放しても大きく広げた膝が閉じられることはなく、カメラに向かって下肢を晒したままローは泣き出しそうな顔で自慰にふけり始めた。往生際悪くスカートを握り締めていた左手で片膝を持たせると、まるで自分から開いて見て欲しいとねだられているようでぞくぞくした。「汚していいから脱ぐなよ」と囁けば、ぴったりした女物に苦しそうに腰が揺れる。

「ユー…スタス屋…!それやだ、撮るのやめろ…!」

「何でだよ、ちゃんと記録したやつ欲しいのに」

「や、だ…そんなの、撮られてるって思ったら、俺…ッ、なんもできね…から」

「…やめたら何でもしてくれる?」

「する、するからっ…!」

濡れて光る指先は言葉とは裏腹に性器を弄り回していて、説得力の欠片もないと思いながらも涙声の懇願に折れてカメラの電源を落とした。
あからさまにほっとした顔をするローに苦笑して、びくびく震えている内腿を撫で上げる。もどかしそうに時折シーツを蹴立てている脚を持ち上げて爪先に口付けると、ローの眼が大きく見開かれて足の指がぎゅっと丸まった。ストッキングごと口に含んで指を一本一本しゃぶり、歯を立てながら視線だけで促すと、抑えが利かないと言わんばかりに早まった動きですっかり濡れた下着からは水音さえしそうだった。薄いレースでも一枚隔ててあるだけで思うように昇り詰めることができないのか、ほんのわずかに躊躇ったあと、許しを請うようにキッドの表情を窺いながら指先がショーツの中に潜り込んだ。

「もう我慢できねえのか」

「や、ぁっ…ごめ、脱がねえ、から…っ、」

「構わねえよ、好きに触れって言っただろ」

散々いやがってたくせにな、とからかってきつく下着を押し上げているそこを軽く弾いてやると、ガタガタッと瞬間的に痙攣したが達するには至らず、潤みきった瞳からぼろぼろ涙を零すばかりだった。
このまま自分で最後までさせるつもりだったが、思った以上に興奮して追いつめられているローの様子に気が変わった。ちゃんと弄って欲しい?と聞けば、取り繕う余地もなく素直に頷かれる。




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