(ペンギン帽子捏造。キドロ←ペンのような、ほとんどペンロのような)
(ペンさん受難でローさんはびっち)




ユースタス・キッドのことが嫌いだ。
理由など、たった一つに絞られる。自船の船長を誑かしたからだ。いや多分事実は逆で、ローの方からちょっかいを掛けただろうとは想像に難くないが、それでも俺にとって、ユースタス・キッドは大切な船長にまとわり付く目障りな害虫に他ならなかった。
あの男が船に来ている間は、常に神経を張り詰めていた。何処にいようと、殺意の欠片でも感じればすぐに扉を蹴破れるように。何ひとつ異変を逃さないように。
ローとユースタスが船長室で何をしているのかなど重々承知だ。ローは良く言えば奔放な、悪く言えば少々性的にだらしなかったし、あの二人は揃って周りを気にしない性質でやることが派手だった。
ローを慕う自分にとって、こんな風に聞き耳を立てるような真似が苦痛でないわけはない。それでも敵船の船長と二人きりで部屋にこもられて、暢気に放って置ける道理がなかった。ユースタス・キッドがローをどう思っているのかなど知らないが、あの男が突然ローに銃を向けたからと言って別段驚きはしない。所詮は敵なのだ。
だからその日、ローが俺を呼んだときも扉越しのくぐもった声にでも反応できた。
扉ごと吹き飛ばすつもりで掴んだドアノブが滑らかに回る。予想に反して鍵は掛かっていなかった。勢いあまって崩れた体勢を立て直し、船長!と叫ぼうとして、しかし一文字目が咽喉に引っかかった所で硬直した。
正面のベッドには確かにユースタス・キッドとローがいる。けれど武器の一つも出ていなければ、能力を発動している様子もない。率直に言えば、大きく脚を割り開かれ髪を振り乱して泣き叫んでいる船長とそれを押さえつけるユースタスは、情事の真っ最中にしか見えなかった。

「ペン、ギ…やだ、ぁ…あ、も…むりって、いって…助け…」

呂律の回っていない声でローが必死に呼んでいる。ユースタスに組み敷かれ、どちらのものとも知れない体液にまみれながら手を伸ばして幾度も俺の名前を呼んでいる。
(なんだ…これ)
ローの声は俺にとって糧であり、麻薬でもあった。頭は真っ白なのに、呼ばれれば脚は勝手にふらふらと近付いていく。伸ばされた手に触れると、普段より随分と温度を上げた指が絡みつく。ペンギン。ローは俺の手に発熱して火照った頬をすり寄せ、涙の滲んだ溜息をついた。
それまで黙っていたユースタスが舌打ちをして、不機嫌そうな顔でローを引き戻した。一言二言、叱りつけるような調子で何か言った後、迷惑そうな顔でちらりと俺を見る。乱れた赤い髪が被さってローの顔が見えなくなる。抱え上げた脚を折り曲げての無理な口付けにローが苦しそうに呻いて、そこで俺はようやく我に返った。
返ったからと言ってどうすればいいのか、見当も付かなかったが。

「ッ、船長を放せ…!」

「…あ?ふざけんな、いきなり入ってきて何言ってやがる。さっさと出てけ、出歯亀野郎」

もっともな言い分だったが、ローが俺を呼んだ以上引き下がる気にはならなかった。助けて、と言われたのだ。
おそらくユースタスはローに危害を加えたわけではないのだろう。単純に無体が過ぎたのだと薄々分かっていた。昔からローは限界になると無意識に俺を呼ぶ。それは幾晩も眠ることができないときであったり、戦闘で瀕死の怪我を負って動けなくなったときだったが、心の箍がほんの少し緩んだときに滑り出すのが自分の名前であることを、喜ばないわけがなかった。
しかしこの状況をどうするべきなのか、正直困惑の方が勝っている。

「ぺん、ぎん…なぁ、こっち…ぁ、そこ、に居ろ…」

いつの間にかユースタスの腕から半分抜け出たローが、俺の首に腕を絡めて引き寄せた。
頬と頬をすり寄せられ、温められた涙が肌を濡らした。噛み締めていたのだろう、少し腫れて赤く熟れた唇が重ねられる。ローの唇は涙と唾液にまみれて温かく濡れていて、まるで表面までもが全て粘膜のようだと思った。
熱っぽい舌に何度も唇をなぞられ、促されるままに開くとたちまち口付けが深くなる。互いの舌をすり合わせ、角度を変えて火照った内側を貪った。

「…おい、いい加減にしろよ」

半ばユースタスのことなど忘れかけていたが、地を這うような声にローが仕方なさそうに身を離す。拗ねるなよ、ユースタス屋ぁ。分厚い身体を押しのけ億劫そうに起き上がったローは、繋がった下半身をそのままに今度はユースタスの上に跨った。

「ユ…スタス屋ぁ、力入らね…し、うごかして」

「ならお前が下のままで良いだろうが」

「やだ…ペンギンに触れね…もん。んー…それとも俺とユースタス屋の下…来るか、ペンギン?」

「…船長に乗られるのはともかく、そいつに見下ろされるのは真っ平です」

「だってよ、はは…ふられたなあ、ユースタス屋」

何処かふわふわした調子で笑いながら、重たそうに腰を揺らしている。気持ちの良いところを探すというよりわざと焦らしているような曖昧な動きに、見た目どおり沸点が低いのかユースタスは乱暴にローの腰を掴んだ。大きな掌で尻の肉ごと鷲掴むように細い体を持ち上げ、一息に沈める。ひっ、と短く息を詰めて、大きく見開かれた瞳がぼろぼろと無防備に涙を零した。
ぐちゃぐちゃと濡れた音に耳から犯されていく気がして、いっそ塞いでしまいたかったが、ローが俺を呼ぶ声が混じっていてはそれもできない。

「うあ、ぁあッ…!ユースタ、スや、深…ぁ、ふ…きもちい、ペンギ、ン…こっちこい、はやく…っ…おかしくなる、からぁ…!」

狂ったように泣きじゃくりながら縋ってくるローをベッドの端に乗り上げて抱きしめた。ひっきりなしに喘ぐ唇に噛み付いて、苦しそうな素振りを見せたら息を継がせて、また塞ぐ。差し出された舌を甘噛みして上顎の奥のほうをくすぐってやると、びくびくと身を震わせて振りほどかれた。それだめ、いっちまうからぁ、まだだめだ、もっと欲しいもっと。つなぎが破れそうなくらい強くしがみついて、臨界点に達しそうになった快感を逃がそうとしている。
浅く速い呼吸の合間、ペンギン、ペンギンと啜り泣くような声で名を呼ばれて堪らない気持ちになった。こんな状況なのに欲情と呼ぶにはあまりに澄んだ色をしていて、けれど底が見えないほどに深い。

「…船長」

少しだけ、期待したのかもしれない。名を呼ぶ声が信じられないくらい甘ったるく、あんまりにもとろけた瞳で見つめてくるから。ユースタスなどそっちのけみたいに俺にすがり付いてくるから。

「今あなたを抱いてるのが誰か、分かってますか?」

けれど血迷った一方で、頭の隅に冷たい理性も半分残っていた。なにしろ長い付き合いで、ローのことは知り尽くしている。この人はひたすらに奔放で、気分屋で、でもどうしょうもなくなると俺を呼ぶのだ。何も特別じゃない、いつもみたいに躊躇なく俺を呼びつけて、それで俺が駆けつけないわけがない。
こういうとき、ローは三日月みたいな笑い方をする。

「…ん、ぁ、ユー…スタス屋、だろ」

ほらやっぱり酷い人だ。



アイネ・クライネ・ナハトムジーク


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