服から奪ったリボンと紐で手首を雁字搦めにしても、トラファルガーは抵抗のひとつも見せず面白そうに眺めているだけだった。手荒くがっつかれて犯されると確信しているんだろう。
その予想を裏返すように、中途半端に乱した服の隙間からゆるゆると肌をなぞり、唇を合わせるだけのキスを繰り返してやると青い瞳が意外そうに瞬いた。
ユースタス屋?と呼ぼうとする声に被せて飲み込むように唇を何度もついばむ。浮いた肋骨を指先で何度かなぞってやると、ベッドに括りつけた腕を居心地悪そうにもがかせた。革を編んだ紐はわずかに伸縮するが、身動けばその分だけ食い込んでいく。思った以上に不自由な身体に今更気付いたのか、トラファルガーがいくらか焦り始めたのが伝わってきたが当然無視した。

「おいユースタス屋……ちんたらやってんじゃねえ、焦れったいんだよ…!」

「好きにしていいんだろ?俺は楽しいから気にすんな」

触れるか触れないかの加減で往復する指がくすぐったいのか、逃げようとして背中が浮いた。自然目の前に差し出された胸元に噛み付いてやると待ちわびたような甘い声が漏れる。膨らみなどない薄っぺらい胸のくせに、軽く舌先でつついてやっただけでぷくりと乳首が立ち上がるのだから、まったく女だろうが男だろうが教え方次第だと可笑しくなった。
そのまま腰を引き寄せて互いの下肢を擦り付けると、熱を持ったもの同士がぐりぐりとこすれてトラファルガーが短く息を呑んだ。尻の肉をきつく掴んで揉みながら、割れめに指をねじ込んで閉じた穴に触れる。布の上からじゃ当然指は入らないが、前にも後ろにも中途半端な刺激を与えるうちに滑らかだった布のすべりが悪くなり、見ると滲んでくる体液を吸って下着の薄い生地が色を変えていた。女物の下着と女にはありえない窮屈そうな膨らみの対比がひどく倒錯的で、脳がぐらつくような興奮を覚える。目を細めた俺に気付いたトラファルガーが頬に血を上らせ、嫌がるように蹴立てた脚はスカートを余計乱しただけに終わった。

「ユース、タ…も、やだ、いい加減ちゃんとさわれ馬鹿ぁ…!」

「命令できるならまだ平気だろ」

「…最っ悪だおまえ…!も、ほんと無理…頼、むから」

いつもより随分と音を上げるのが早い。
このままもう少し焦らしてやりたい気もしたが、窮屈そうな下肢と涙の溶けた声があまりに切羽詰っていて苦笑した。
今にも癇癪を起こしそうなトラファルガーにひとつ口付けて黙らせる。
しっとりと汗を吸って纏わり付くタイツに手をかけ、最初に引っ掻いて破った所から思い切り引き裂いた。いっそ硬質にさえ聞こえる音を立てて生地が裂け、悲鳴じみたそれにトラファルガーが目を見開いて何か言おうとしたが言葉にならず、次の瞬間大きく身を震わせながら達した。
唐突すぎたのか嬌声のひとつも上げられずに呆然と呼吸を乱すトラファルガーは、多分何が起きたのか処理できていない。俺だってまさかこのくらいでと驚いたが、もう役割を果たさないくらいグチャグチャの下着の紐を解いてどろりと重たい白濁が滲むのを見て、こいつの変態趣味もたまには良いほうに転ぶものだと楽しくなった。
一度出したくせにまだ芯を持っているそこをわざと乱暴に揉みしだきながら、無傷のまま残っているもう片足のタイツも派手に引き千切ってやると、案の定組み敷いた身体がびくびく痙攣する。さすがに吐精まではいかなかったが、ぼろぼろになった布を引っぺがして剥き出しにした性器はすっかり勃ち上がっていた。

「別にイかせてやるつもりじゃなかったんだけどな。そんなに気持ちよかったのか?」

両脚を抱え上げて身体ごと折り曲げると無防備に晒された穴がもの欲しそうにひくついていて、真っ赤になったトラファルガーが脚をばたつかせるが、性器にほど近い内腿に吸い付くとビクンと硬直して大人しくなる。
指先だけを胎内に沈めたが異様なくらい抵抗感がない。受け入れることに慣れているとはいえいつもならもっと硬く閉じているのに。そのまま根元まで指を埋めて中を広げるようにかき回したら、ドロリと温かい液体が零れてきて目を瞠った。

「もしかして、なんか自分で入れたか?」

「…ぅ、ん…ここ来るまえ…に、ゼリー使った…すぐやりたかったし」

だからもういれて、と熱に浮かされたみたいに呟く。自分の言葉にも興奮するのか、すでにドロドロだった性器が震えてさらに零れた体液が服を汚した。どこで調達してきたかは知らないが、もう着れたもんじゃねえなこれ。
溢れたゼリーと体液を一緒くたに掬い取って、トラファルガー、と意識して甘ったるい声で呼びかける。

「ここ。舌か指、どっちで弄って欲しい?」

ことさら優しく掛けた言葉と、瞬き二回分の間。ふやけた頭で意味を噛み砕いて、潤んだ瞳が羞恥と失望に揺らいだ。

「いや、だ、なんで…!どっちもやだ、そんなんじゃ足りね…って…!」

泣き出しそうでどこか舌っ足らずな声にぞくぞくする。ねだられなくたってすぐにでも突っ込んでやりたいが、そう思うのと同じくらい、もっと焦らして泣き喚かせてやりたかった。涙や唾液でぐちゃぐちゃになって、意味を成さない喘ぎと俺の名前しか呼ばなくなるこいつを見るといつだって堪らない気持ちになった。甘やかして何でもしてやりたいような、どこまでも酷くして泣き腫らした目許にキスしてやりたいような。

「選べねえのか。じゃあ両方?それとももっと別のもん?」

「い…加減にしろよ…!別のに決まってんだろ…!も…はやく、お前の、」

両手が自由だったらとっくに自分から乗って腰振ってるんだろう。
しょうがねえな、と笑って頬を撫でてやると、ようやく望みの物が貰えると思ったのか大人しくすり寄って細く息をついた。火照った頬には掌が冷たく感じるのか、安心したようにうっとりと目を閉じるからその隙にサイドテーブルに手を伸ばす。他でもないトラファルガーが無造作に寄越したいくつかの菓子の中からカラフルなスティックキャンディを取った。

「なぁ、今更だけど菓子食うか?」

「…な、に…そんなのいま食えねぇし」

「そう言うなって。せっかくのハロウィンだろ」

「いらねえって…え、待て、ユー…スタス屋、なに、」

何をされるか察したのか暴れる身体を押さえつけて、親指ほどの太さのキャンディを後ろにねじ込んだ。
短い悲鳴をあげ、トラファルガーは必死に首を振ったが、拒絶する態度とは裏腹に柔らかい泥に沈むみたいにずぶずぶ埋まっていく。あんまり美味そうに引きずりこんでいくから、腹へってたのか?と笑っても、飛んでくると思っていた罵声すらなかった。

「うぁ、あ…やめっ…ユースタス屋、痛っ…ぁ…」

「ちょっと長いか?でももう少し頑張れば全部入りそうだぞ」

「入るわけ…や…めろ馬鹿、むりって…っ、深、ぁ…や、だやだやだぁ…!」

「あー…この辺が限界か。これ以上は取れなくなりそうだしな」

四分の三ほど入れたあたりで、本気で悲鳴が上がったのでさすがに手を止めた。
浅く速い呼吸を繰り返すトラファルガーは目の焦点が合っていない。いつもに比べたら大した太さもないのに、よほど奥まで届いたのか少し抜き差ししただけでも引き攣った声が漏れた。
キャンディはあと二本あったから全部突っ込んでやろうと思っていたのだが、この様子じゃ無理があるだろうか。それにいくら楽しくても俺自身がそろそろ限界だった。

「なぁトラファルガー、そこにまだ二本あるんだけど」

「…ま、て…むり、絶対無理だから…!」

「これあと二本咥えるのと、一本入れたまま俺のぶち込まれんのどっちがいい?」

「……ぇ、ど…っち、て」

「さっさと選ばねえと、とりあえずもう一本入れるぞ」

サイドテーブルから二本目を拾うと、トラファルガーが慌てたように制止の声を上げる。よほどこれが気に入らなかったんだろうか。萎えもしねえで勃ててるくせに。

「やだ、それ嫌だ…ユ、スタス屋ぁ…!」

「じゃあこのまま突っ込んでいいな?正直そろそろ我慢できねえ」

力抜け、と尻を叩いたら、魚みたいに腰が跳ねて張り詰めた性器からとろとろと先走りが溢れた。そろそろ刺激の種類が関係なくなってきたらしい。追い詰めてやれば、痛いのも気持ち良いのもまとめて熱に変えてしまえるのだ、トラファルガーは。
この分なら大丈夫だろうと、キャンディを咥えたままの後孔を指で広げてガチガチになったものをゆっくりと挿入していく。蕩けきっているくせにいつもより狭い肉を少しずつ抉じ開けて、前立腺の辺りで抜き差しするとトラファルガーは声もなく震えて脚を絡ませてきた。腕を縛られたままで何も縋る物がないからだろう、だがそのせいでせっかく加減してやったというのに俺のモノはずぶずぶと呑み込まれ、トラファルガーからは今度こそ女みたいな悲鳴が上がった。やだ、ふかい、死んじゃう。甘ったるく煮詰まった声で、壊れたようにそればかり繰り返す。

「ゆ、すた…す屋ぁ…!も、でる、でるから、ぎゅって押さえ…て、とめて…!いま出した…ら、おかしくなる、から…ぁ、あっ…!」

「とっくになってんだろ…もう全部グチャグチャじゃねえか。いいから好きなだけぶちまけろよ、ビッチ野郎」

「やだ、やだぁ…だめ、まだ出さな、い…!おく、もっと奥、入れてい…から、おねが…ユー、スタス屋…!せーえき、出して、から…っ…ごりごりされたら、死んじゃ、う…からぁ…!」

「ほんとお前って嫌嫌ばっかりだな、ろくに動けもしねえくせに我侭だけ言いやがって」

わざと冷たく投げつけた言葉に、熱でどろどろになりながらもトラファルガーがわずかに怯むのが分かった。
無意識に逃げようとずり上がった身体を引きずり戻して、汗や体液でぐしゃぐしゃになったブラウスを掴み、上着ごと一気に引き裂いた。ボタンが弾け飛ぶのを視界の隅に捕らえながら、なにかを言いかけたトラファルガーの口を掌で塞いで、押さえつけたまま容赦なく腹の中を犯した。腸壁が破れるんじゃないかと思うくらい、硬い骨も柔らかい肉も滅茶苦茶にぶつかりあい、トラファルガーは口を塞がれたままくぐもった悲鳴を上げて今度こそ精液をぶちまけた。

「なに、お前こうされるの気に入ったのか。じゃあこの格好で船まで帰るか、なぁ?たった今までヤられてましたって一目で分かんだろ。多分そこらじゅうで悪戯してもらえるぞ」

「…ん…っ…ふ、ぁ…」

「安心しろよ。ちゃんと付いていってやるから。鬱陶しいのは全部ぶち殺して、その場でまた犯してやる」

強姦してるみてぇできっとすげえ興奮する、と囁いてべろりと目許を舐めてやったら掌の下で熱い息が吐かれる。苦しそうな表情に気付いて手をどけてやると、涙をぼろぼろ零しながら頬をすり寄せて、はやくちょうだい、とねだられた。誘われるがままに俺もトラファルガーの中に射精する。どくどくと注がれている間、トラファルガーはいつも嬉しいような泣き出しそうな顔をしていた。苦しいのかと訊いたら、腹の中があったかくて幸せだと笑われた。



気付くと窓の外が白々と明るくて、結局こいつのせいで一睡もできなかったのを知った。
重すぎる身体を引きずってどうにか起き上がる。トラファルガーはとうに気を失っていた。どちらのものか分からない体液にまみれてあちこち破れた服を着たままで、これを抱きしめて眠るのはさすがに勘弁して欲しい。
ぐっすり眠っている人間から服を脱がせるのはなかなか一苦労だったが、どうにか引っぺがしてついでに汚れた身体を拭い、部屋の隅に放り投げた。ぼろきれと化したそれは間近で見るとずいぶんと高そうな布やレースで出来ていて、妙なところで凝り性なトラファルガーに感心していいのか呆れていいのか分からなくなる。すっかり夜が明けて陽の差し込み始めた窓を分厚いカーテンで覆ってベッドにもぐりこんだ。
外では魔物どもの去った新しい一日を祝っているんだろう。トラファルガーを抱き寄せて暖を取りながら、この部屋にまだ気だるく残るハロウィンの名残をほんの少しだけ惜しんで目を閉じた。
泥のような眠りがすぐそこに見えていた。





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