(魔女っ子女装ローさんでハロウィン話です。なんかもうすみません)
(着衣えろとか、タイツの上にパンツは正義だと思います)





ずいぶん夜も更けたというのに、荒っぽく叩かれる扉にたちまち機嫌が急降下していく。これから酒でも飲んで眠ってしまおうと思っていたのだ。
腰を上げるのがひどく億劫で、手に持った酒瓶をことさらゆっくりとテーブルに戻す間も、ノックの音はどんどんけたたましくなる。この辺りで些か妙だと思った。扉を叩くばかりで名乗ることもなければ、用件の一つも告げられない。おまけにノックにしてはやけに硬い音がするし、どうにも位置が低すぎる気がする。まるで行儀悪く足を上げて、踵で扉を蹴りつけているように。
よりにもよって船長室にそんな無礼を働くクルーなど…と考えて、なんとなく嫌な予感がした。クルーでなければ心当たりは一人いる。いるにはいるが、思い浮かんだそいつがこの船にいるはずがないのだ。常識的に考えれば。
ひとつ、深呼吸をして今にも壊されそうに悲鳴を上げている扉を開けた。

「おっせえんだよ、トリックオアトリート!ユースタ、」

バタンと扉を閉め、これから酒でも飲んでさっさと眠ってしまおうと考えた。
酒瓶を引っ掴んでベッドの方へと二歩進んだ所で、今度こそ派手な音を立てて扉が蹴り開けられた。

「…俺を無視するとはいい度胸だな」

カッとヒールを鳴らしながら部屋に踏み入ったトラファルガーは、黒を基調にした女物の服ととんがり帽子を身に付けていた。服の裾や袖にはやたらと凝ったレースが縫いつけられ、ふわふわ膨らんだスカートは膝の中ほどまでしかない。ご丁寧に蝙蝠のチャームが付いた帽子の先から、扉を蹴り続けていたであろう靴の踵まで視線をめぐらせて、なんともいえない疲労と頭痛を覚えた。さっきのは目の錯覚だとせっかく自分に言い聞かせていたのに。

「なんとか言えよ。褒めるとか讃えるとか嬉し泣くとか」

「頭沸いてんのかてめぇは!つかそんな格好で脚振り上げてんじゃねえ!さっきパンツ見えたんだよ!!」

「出会い頭にスカートの中覗くとかさすがだなユースタス屋…正直引くぞ」

蔑むようにツンと顎を上げ、心底呆れ返ったといわんばかりの口調だが、なんだって女装した変態にこんなこと言われなきゃならないのか。今すぐ窓から放り出してやりたい。そして何もなかったことにして本当にもう眠ってしまいたい。

「なんだよ、ハロウィンだからってせっかく来てやったのに不機嫌だな。自分で言うのもなんだけど結構似合ってんだろ」

確かに、と腹の内でだけで呟く。口に出そうものなら恐ろしい調子の乗りかたをするに違いないので、あくまで腹の内だけで。
露出が極端に少ないせいか言うほど違和感はないのだ。体型の分からない緩いラインの服にスカートの下はタイツとロングブーツ、目深に被った大きめのとんがり帽子と顎先まで埋もれるマフラーのせいで一見性別が分からない。目の下の隈と、三日月が裂けるようなにやにや笑いが陰鬱な雰囲気を引き立てていた。
だからといって、夜中に女装して敵船に押しかけても許されるわけじゃないと思う。

「…それで、そんな格好で何しに来たんだよ。菓子でも欲しいのか?」

「だからこの格好見せに」

「充分見たから今すぐ帰れ。俺は寝る」

「つれねえなあ…あとはもちろんユースタス屋と遊びに」

許可なく俺のベッドに腰掛け、重たそうな帽子をぽんと放り投げてトラファルガーはひとつ舌なめずりをした。



俺が逃げ出さないようにという要らない配慮なのだろうか。
壁に背を預け、膝の上にはトラファルガーという体勢では確かにそうそう身動きも取れない。いくらこいつが細身だからといって、遠慮もなしに体重を掛けられればそれなりに重かった。

「あれだけ迷惑そうな顔してたくせに、結構乗り気なんじゃねえか」

遊び半分のように下肢をまさぐっていたトラファルガーが、勝ち誇ったように目を細める。お前がしつこく触ってるからだ、馬鹿野郎。だいたい何だってこいつはいちいち上から目線なんだろうか。
腹が立つから引き剥がそうとしても、くすくす笑い声を上げてよけいに腕が絡みついてくる。
何層にもなった分厚いスカート越しに腰を擦り付けられ、あまりのじれったさに苛立ちが募るばかりで、衝動と腹立たしさのままに薄っぺらい身体を放り投げて覆いかぶさった。
わざとらしい嬌声を上げるトラファルガーに心底げんなりして、頼むから黙れ、と口を塞いだ掌をべろりと舐められた。そのまま見せ付けるように指をしゃぶりだした口元に一瞬意識を奪われたが、構ったら負けだと経験が知っていた。
脱がせにくそうな上着を無視してスカートを捲り上げる。
扉を開けた時点で一度は見ていて覚悟はしていたが、にやにや嫌な笑いを浮かべるこいつは一体俺に何を期待しているんだろうか。

「…さっきは見間違いかと思ったんだけどな…なんでお前下着まで女物なんだよ」

「だってこの格好で男物の方が萎えるだろうが」

「大体これ…タイツの上に穿くもんなのか?下着なんだから直につけねえと意味ねえんじゃねえのか」

「最初は中に穿いてみたんだけど、こっちの方がスカートめくったとき見た目に楽しいだろ?ユースタス屋はきっとこういう方が好きだろうなあって試行錯誤したんだぞ」

「いい加減ぶっ飛ばすぞてめぇは!!」

あまりの言い草に半ば本気で怒鳴ると、それすら予想通りなのかトラファルガーは嬉しそうに笑って、下着を留めている紐に指を引っ掛けた。

「こういうのはお気に召さないか、ユースタス屋。続き、したくねえの?」

スルリと半分だけ引いて、完全に解ける直前で動きを止める。甘ったるい声で名前を呼んで内股を擦り合わせるトラファルガーは、恥じらいもなくここまでするくせに、俺が意地を張って気に入らないと答えれば即座に服を整えて帰ってしまうだろう。そして呆然とする俺を笑いながら、悪戯電話の一つもかけてくるに違いないのだ。そういった事を楽しめる奴だと嫌というほど知っていた。

「トラファルガー」

「ん、なんだ?」

「せっかくだから全部着ておけ。そのままで遊ぶから」

「は?でも下くらい脱がねえと…」

言い終わらないうちに片足を抱え上げ、爪を食い込ませて脚を包むタイツを破った。ビッと音を立てて伸縮性のある生地が裂ける。トラファルガーが一瞬身体を強張らせたが、俺の意図を察したのかすぐに力を抜いた。

「そういうプレイがしたいのか?俺の事とやかく言えねえなぁ」

「勃たせといて言う台詞かよ変態野郎。嫌だっていうなら今のうちだけ聞いてやる」

「ははっ…言うわけねえし。付き合ってやるから好きに悪戯しろよ。今夜はそういう日だろ」

元々享楽的な性格をしているこいつが、これくらいのことを拒むはずもないと知っていた。けれど言質は取っておくに越したことはない。
好きにしろってお前が言ったんだからな、トラファルガー。




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