「幸子!総悟!好き嫌いしちゃいけません!」
「だってピーマン嫌いなんだもん!」
「ニンジンなんて人間の食べ物じゃないやィ!」


小さいとき、私はピーマンが、総悟はニンジンが嫌いだった。私たちは食卓にピーマンとニンジンが出てきては、お父さんに叱られていた。


「幸子、マヨネーズかけろ。味ごまかせるぞ」
「いやぁー、トシ兄マヨくさい」
「(ガーン!)」
「オラ、お前ら好き嫌いしてたら背ぇ伸びねーぞ」
「晋兄、背の順で前から二番目じゃん」
「説得力ねぇや」
「(ガーン!)」
「幸子、俺のニンジン食べてくだせェ。ピーマンは俺が食べまさァ」
「お!ぐっどあいでぃあー」
「コラコラコラコラ!」


私と総悟はトシ兄達に励まされながら一時間半野菜と格闘した。半泣きだった。こんなもの二度と食べてたまるかと心に誓った。



***



「幸子、総悟、二人共ちょっとこっち来い」


次の日、私達は銀兄に台所に呼ばれた。ちなみにこの頃の銀兄は中学生だ。


「おめーら、晩飯作るの手伝え」
「何作るんでさァ?」
「カレーだ」
「カレー!」


今日の食事当番は銀兄らしい。台所にはカレーの材料。
しかし、そこには何故か私たちの憎き敵も一緒に並んでいた。


「銀兄!何でピーマンとニンジンがここにあるの!?」
「カレーにニンジン入れんだろ」
「ピーマンは入れないよ!」
「俺ぜったい食わねぇや」


二人はだだをこねるが、「ウルセー!いいから黙って手伝え」と銀兄に怒鳴られてしまい、渋々手伝い始めた。


「ニンジンは皮を剥く。ピーマンは中の種をとる。他の野菜も皮剥いたらみじん切りしろよ」
「みじんぎり?」
「小さく切んの」


銀兄に言われた通り私たちは野菜を切る。小さく切られたニンジンやピーマン、他の野菜達は、色とりどりの粒々になってキラキラしている。元の野菜が何だったかなんてもう分からなかった。


「お!今日はカレーか!」
「幸子が手伝ったんだよ!」
「俺も手伝いやしたぜ」


子どもの思考なんて単純で、自分達で作ったという達成感だけで誇らしい気持ちになる。嫌いな野菜が入っている料理もご馳走に見える。結局私と総悟はカレーを三杯もおかわりした。


「銀兄、カレーおいしいねっ!」


私がそう言うと、銀兄は優しく笑った。



ピーマンさんと
ニンジンさん

(好き嫌いなんてありません)

end


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