拝啓、金時様。
お久しぶりです。ご家族の皆さんは元気にしちょられますろうか。近々仕事で日本に戻る予定ですので、帰国した際はパーっと酒でも飲みに行くぜよ。
          坂本辰馬


「まっこと久しぶりじゃのう〜、金時」
「会いにくるって手紙を直接渡す馬鹿がどこの世界にいんだよ」
「アッハッハ!うっかり出し忘れたぜよ」


辰馬が突如帰国してきた。
大学を中退して日本を飛び出して、今じゃ世界を股にかける大企業の社長にまで上り詰めた宇宙一馬鹿な俺の幼馴染は、不気味な色の饅頭を手土産に、帰国したその足で我が家を訪れた。


「幸子!」
「たっちゃんっ!?」
「大きくなったのー幸子。胸もこんなに…ってィだだだだ…!髪引っ張ったらいかんぜよ金時!」
「調子乗ってんじゃねえよテメー!」


幸子は辰馬を見るなり真っ赤になってぽろぽろと泣き出した。そんな幸子を辰馬のでっけえ身体が抱きしめる。感動の再会だァ?ふざけんじゃねえ。辰馬の頭わしづかんで幸子からひっぺがした。
愛だの恋だのまだ何も知らなかったあの頃、幸子は純粋に辰馬の事を思っていた。だからこそ、今再び二人が出会うこの日を俺はずっと恐れていたのだ。


辰馬、来日
(アーッハッハッハ〜!)



「何で今さら日本に帰ってきた?仕事っての嘘だろ…辰馬」


幸子は家でご馳走を作って待っていると言っていたが、俺は辰馬を外に飲みに連れ出した。もともとそのつもりだったし。何より幸子と辰馬が一緒にいる事が許せなかった。


「アハハ〜いやあ、わしもそろそろ嫁でももらおうかと思ってのぉ、 ――幸子を迎えにきたぜよ」
「テメ…っ!」


ガシャアアン。皿が割れる音。俺は無邪気に笑う辰馬の胸倉を掴んで立ち上がった。
いつもそうだ。お前はいつも自由で、それでいて欲しいものはあっさり手に入れちまう。幸子の気持ちは?殴るだけじゃ気が済まねえ。震える俺の腕に手をかけた辰馬は、静かに俺の名前を呼んだ。


「冗談じゃ、金時」
「……笑えねえよ」
「幸子は、まっこといい女子になったのう」


一瞬、辰馬の表情がグラサンの下から見えた。それはいつものへらへらした笑いとは違う。真剣なその眼差しは、あのときと同じ。世界を見にいくと言って笑った、あの日と同じ目をしていた。
辰馬は言う。お前達兄弟はいつまで幸子を鳥篭の中に閉じ込めているつもりだと。俺だって分からない。でも俺達は、俺は、幸子が大切なんだ。これ以上何も手放したくない。テメエなら分かんだろ、辰馬。


「今夜はわしの奢りじゃき、じゃんじゃん飲むぜよ!」
「……もう飲んでらァ」


酒は飲んでも
呑まれるな

(オ…ボロロロロ!!!)



「アッ、ハハハ〜……」
「俺もう酒やめるわーホント神に仏に幸子に誓ってやめるからマジで」
「銀兄、たっちゃん、大丈夫?」


次の日。俺達は一晩中飲み続けて朝方家に帰ってきて玄関でぶっ倒れた。どんなにカッコイイ事言ったって今はただの二日酔い駄目オヤジ×2。水を取ろうと開けた冷蔵庫の中には、昨日の夜幸子が辰馬のために作ったご馳走が丁寧にラップされて入っていた。
――ごめんな、幸子。






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