「ねえねえ、一緒に遊ぼうよ」


これは俺がまだ五歳のときの思い出。俺はいつものように公園でバドミントンの練習に励んでいた。相手はいないので一人でひたすら素振りを繰り返す。これは所謂『ひみつのとっくん』。俺は影で努力するタイプなのだ。
そんな俺に突然声をかけてきたのは同い年くらいの女の子だった。誰だろう?この辺りじゃ見かけない子だ。


「(うわあーかわいいなあ)」
「あなたお名前は?」
「山崎、退」
「…えーっと、ジミーくんね」
「何でそうなるの!?」
「ジミー、一緒に遊ぼっ!」


結局俺をジミーと呼ぶ事にしたらしい。「さあ来いっ!」女の子は余っていたラケットを持って俺の正面に立って叫んだ。勝手だなあ。仕方なく俺は易しいサーブを打ってあげた。


「ちゃーしゅーめんっ!」
「ええぇえぇえ!?」


掛け声は威勢がいいのに豪快なる空振り。(何で!?)レディに恥かかせてんじゃねえぞテメェと女の子の無言の目が訴えかけてくる。(俺のせい!?)


「もうやだ。バドミントン嫌い」
「あああ俺のラケット!」
「ジミー、かくれんぼしよう」


俺はかくれんぼが嫌いだ。だってどんなに分かりやすい所に隠れても、誰も俺を見付けてくれない。探してくれない。どいつもこいつも最後は俺を忘れて先に帰ってしまう。(俺が地味だからしょうがないのかもしれないけれど)
だから俺はかくれんぼなんか大嫌いで、本当はそんな遊びしたくないのに、女の子は目を閉じて勝手に数を数え始めた。


「いーち、にー、さーん、し、」
「ちょ、ちょっと!俺かくれんぼなんかやらないよ!」
「ごー、ろーく、しーち、はーち、きゅーう、じゅう!もういいかい!」
「ま、まーだだよ!」


何で思わず返事しちゃうんだ俺は!再び女の子が数を数え始めたので、仕方なく俺はどこかに隠れる事にした。(どうせ見付けてくれないくせに)


「じゅう!……あ、ネコさん!」


ネコさんんん!?完全にネコに気を取られた女の子は隠れている俺の事なんて忘れてわーいと走り出してしまった。
(何だよあいつ!勝手に現れて俺の特訓の邪魔して!さんざん振り回してどっか行っちゃって!結局俺の事なんか探してくれないじゃないか!どうして皆、俺を見付けてくれないんだよ!)
悔しくて悲しくて、涙が溢れてくる。わああと膝に顔を埋めて泣いていると、誰かの手に優しく頭を撫でられるのを感じた。


「みーつけたっ」


顔を上げると、太陽みたいな笑顔の女の子がそこにいた。


「何で泣いてるの?もしかしてどっか痛いの?」
「!や、ちが…っ」


泣き顔を見られた事が恥ずかしくて、慌てて顔をふせる。急に泣き出してしまった事を早く謝らなきゃと思って、俺はまだこの子の名前を知らない事に気が付いた。「じゃあ次はジミーが鬼だよ」とやっぱり女の子は楽しそうに笑っている。
次の瞬間、夕方四時を知らせるチャイムが公園中に鳴り響いた。


「やばい!早く帰んなきゃお兄ちゃんに怒られる!」
「え!え!?」
「ありがとうジミー!また遊ぼうね」


言い残すやいなや、女の子は一目散に公園を駆け出した。
ちょっと待ってよ!まだ名前も聞いてないのに!そんな俺の声はオレンジ色の夕日と一緒に静かに沈んでいく。
もう女の子の姿は見えなかった。


かくれんぼ
(また遊ぼうね)(絶対だよ)



「あのさ幸子ちゃん、」
「どうしたの、退?」
「………やっぱ何でもないや」
「?変な退〜」


あのときの女の子、幸子ちゃんにそっくりなんだよなあ。





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