「言ったよなァ、幸子を泣かせたら…俺がお前を殺すって」


再び僕の前に現れた近藤晋助は、酷く冷めきった目で僕を見る。(どうして皆そんな目で僕を見るんだ)あの時と同じように胸倉を掴まれ、彼が振り上げた拳に僕も冷めた視線を返す。だから言っただろう。やはり彼も馬鹿な人間の一人なのだ。
しかし近藤晋助は何も言わず腕を下ろし、掴んでいた手を放した。


「お前は結局、単純に負けて悔しかっただけじゃねえのか」
「何を言う。僕がそんな理由で」
「クク…お前、自分以外の人間は皆馬鹿だと思ってるクチだろう。俺も、あいつも、幸子の事も」


あいつとは近藤十四郎の事だろう。僕の価値を理解できない奴等など、馬鹿な人間に決まっている。それの何が可笑しい。一体何が間違ってると言うのだ。


「お前が馬鹿だと思ってる人間が、誰よりお前という存在を認めてくれていると気付かないなんて、随分滑稽な野郎だなァ」
「!?」
「幸子がまだお前を理解したいと思ってる、…なら俺達はそれを受け入れるしかあるめぇよ」


近藤幸子が、僕を理解しようとしているだと?そんな筈はない。彼女は僕と正反対の存在なのだ。
純粋で弱く愚かな彼女は、それ故に無条件で誰からも愛される。そんな彼女が僕を理解できるわけがない。

生まれてから今まで、僕という存在が母に認められる事はなかった。認められたくて努力した。勉強もスポーツも、全てに於いて、僕はひたすらに努力を重ね頂点を目指した。
結果周りからは疎まれ、いつからか僕は一人になった。
――もっと。もっと頑張れば、きっと皆認めてくれる。もっと。もっと。もっと。もっと。もっと!


「伊東よ……お前はただ、一人だっただけだろう?」


僕は一人だった。でも僕が一人なのは僕のせいじゃない。僕と奴等は住む世界が違うのだ。そう思い込む事で、自分の欲求を押し殺した。


「お前が求めているのは、自分を認めてくれる理解者なんかじゃねェ…」


確かに、初めは近藤十四郎に勝つ事が目的だった。彼に勝つためいろいろ調べていくうちに、あの家族の本当の姿を知ってしまった。何故、彼等は互いに信頼しあい、愛し愛された関係を保っていられるのだ。本当の家族でもないくせに。
――彼等は、僕が欲しいものを持っている。
いつの間にか忘れていた。僕が、本当に欲しかったもの。


「伊東さん!良かったらうちで晩ご飯食べて行きませんか?」
「すごいなぁ、伊東先生」
「きっとたくさんたくさん、頑張ったんですよね」
「今日も遊びに来ちゃいました〜」



僕はただ、誰かに隣にいて欲しかった。誰かに見て欲しかった。一人が嫌だった。


「こんにちわ!伊東先生っ」


ただ、それだけなのだ。



馬鹿と言う子が馬鹿
(馬鹿な僕と馬鹿な君)

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