「なんつー無樣な負け方してるんでさァ」


全国大会地区予選。個人リーグ戦、俺は試合開始早々敗北に喫した。心の動揺は太刀筋に現れる。全ては伊東の計画通り。俺は自分が弱い人間だと思い知らされた。
一方、順調に勝ち上がっているらしい総悟は、当然敗退した俺を馬鹿にしに来た。


「…俺も、知ってやすぜ。自分があんたらと兄弟じゃねえって事」
「!?」
「俺は幸子みたいにテメェら兄弟を大事に思ってなんかいねえ、むしろ嬉しすぎて涙が出てくらァ」
「総悟、お前…」
「それに、俺はそんな事で動揺して負けるようなカス野郎じゃないんでね」


幸子と総悟に本当の事を話さなかったのは、二人にはまだ伝えるべきではないと俺達が勝手に判断したからだ。子供だと思っていた。心のバランスが取れるようになるまで、もう少し大人になるまで秘密にしていようと決めた。
伊東の思惑通り、事実を知った幸子は酷く苦しんだ。幸子は苦しんで、そしてそれを乗り越えた。(何しろ朝早くから天パと一緒に弁当をこさえていたぐらいだ)


「俺は幸子さえ笑っていてくれりゃ、それでいいんでさァ」


子供だと思っていた幸子も総悟も、弱くなんてなかった。本当は怖かったのだ。真実を伝えた時、家族がばらばらになってしまうのではないかと。俺は幸子が離れていってしまう事を恐れた。――弱いのは俺自身だ。俺は幸子を泣かした奴をぶっ飛ばす事すらできないのだ。


「あんたは黙って見てなせェ。伊東の野郎は俺が倒しまさァ」
「ああ。頼む」
「素直過ぎて気持ち悪いですぜ、死んでくれ頼む」
「……テメェが死ね」


どうやら伊東も勝ち残っているようだ。このままいけば総悟とあたるのは決勝戦だろう。
幸子は親父と共に声を張り上げて総悟を応援していた。俺を見付けると、「トシ兄も一緒に応援しよう」と手招いた。


「すまねぇ幸子、俺ァ…」
「何で謝るの?トシ兄、私達…まだ負けてないよ」


決勝戦で総悟は必ず伊東を敗る。それに午後にはまだ団体戦がある。絶対勝つ。――そうだ、俺達はまだ負けてない。


「ね?だからトシ兄はこのスペシャル弁当を食べて、午後の試合頑張って!」


変わらず幸子は、俺を兄貴だと呼んでくれる。その笑顔は何も変わっちゃいない。何も心配する事なんてなかった。俺達は最初から家族だった。そしてこれからも家族なのだ。
幸子がいる限り、俺達家族は終わらない。俺達は何者からも幸子を護る。ただそれだけだ。

幸子、お前は近藤家の魂だ。そして俺達兄弟は、それを護る剣なんだよ。



まだ負けてない
(何人たりとも、俺達の魂は汚させねェ)



「一度折れた君に何が護れるというのだ、近藤十四郎」
「……伊東」


お互い礼をして竹刀を合わせる。防具の隙間から見える伊東の眼の色が変わった。
俺はもう、負けるわけにはいかない。


「伊東ォオオ!!」
「来い近藤十四郎!最後の決着の時だァアァアア!!!」



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