「あの子の家、お母さんいないんだって」
「もしかして、親に捨てられたんじゃねぇの」



物心ついた頃から疑問に思っていた。――何で私にはお母さんがいないの?お兄ちゃんもお父さんも教えてくれなかったから、無意識に聞いてはいけない事なのだと思っていた。
だからその事で虐められても、私は抵抗する事ができなかった。悔しくて、ただ泣いた。


「幸子を泣かしたのはテメェらかァアア!!」


私が虐められてると知ったお兄ちゃん達は、私を虐めていた奴らを全員ぶん殴りに行った。殴って殴られての大喧嘩。血まみれになって帰って来たお兄ちゃん達を見て、私はまた泣いた。
そんな私に、お兄ちゃんは約束してくれた。


「幸子は俺達が護る」
「何があっても俺達が傍にいる」



うずくまって泣いてばかりだった小さい頃の私。でも顔を上げると、そこにはいつも私を護るお兄ちゃん達の背中があった。どんな時もお兄ちゃんは傍にいてくれた。


「約束だ、幸子」
「……うんっ」



――だからもう泣かない、そう決めたんだ。





私達家族は本当の家族ではない。身寄りのない子供だった私達を、お父さんが引き取って育てくれたらしい。母親がいない理由も、誰一人として兄弟の顔が似つかない事もこれで合点がいく。
銀兄に聞かされた真実は、私にとって余りに残酷なものであった。ショックだった。でも、


「銀兄、私もう大丈夫」
「幸子」
「もう泣かないって決めたの、思い出したの」


お父さんも銀兄も晋兄もトシ兄も総悟も、何があろうと私を一番に思ってくれていた事を私は知っている。私達が今まで一緒に過ごしてきた時間は嘘じゃない事を、私は知っている。


「明日のトシ兄達の試合、皆で応援に行こう」
「だったら明日、銀さんが腕によりをかけてお弁当作ってやろうじゃねえか」
「うんっ」


いつも私は周りからの愛を感じて生きてきた。家族に、友達に、皆に愛されていた。
私も同じものを周りの人達に与えたい。返したい。

――だから強くなる、そう決めたんだ。



私は知っている
(私達家族は誰にも負けない)

next


第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -