「君の家族は、嘘吐きなんだよ」


どうして伊東さんの言葉にそんなに動揺したのか自分でも分からない。今まで嘘を吐かれた事がないわけじゃない。エロ本なんか持ってないぜェって言ってた晋兄のベッドの下に大量の成人雑誌を見付けたのは割と最近の話。
でもきっと退の言うように、全て私のために吐いた嘘だと思う。


「…と言うわけで、今日も遊びに来ちゃいました〜」
「……」


放課後になると毎日のように伊東さんに会いに行く。目的はもちろんライバル校の偵察。私だってトシ兄の力になりたい。それに部活のない日はちゃっかり伊東さんに勉強を教えてもらっている。
伊東さんは何処かお兄ちゃんに似ているから、一緒にいると心地好い。


「先生に言われて考えたんですけど、やっぱり私の家族は嘘吐きじゃありませんよ」
「…何故、そう思う…?」
「だって私、皆を信じてます」


そのとき私は知らなかった。


「…君は知らないんだ」


私は知らなかった。伊東さんが私の事をどう思っていたかなんて。私の言葉が、どれだけ伊東さんを傷付けていたかなんて。


「じゃあ伊東先生は、一体何を知ってるって言うんですか」
「…全てだよ」


伊東さんは知っていた、私の家族の秘密を。――そしてそれは、私にとって余りに残酷な真実。


「君達兄弟は、…何の繋がりも持たない、偽りの家族なんだよ」


偽りの家族…?


「何の繋がりも、ないって…」
「血が繋がっていないって事さ。当然だろう、あんなに似ていないのだから」
「う、嘘っ」


言ってる意味が分からなかった。つまり私の家族は本当の家族じゃないって事?
伊東さんの言葉が私の心を刳る。私はショックで、その場にへたり込んだ。


「君も、隠れてないで出て来たらどうだい」
「…え?」
「近藤総悟、何をしている?今の話、君も聞いていたのだろう」


伊東さんに呼ばれ、私達の前に現れたのは総悟。総悟の右手には竹刀。その加虐的な目に、思わず身体が強張る。


「……が、何やってんだ」
「総悟、どうして…っ」
「テメェが何やってんだって聞いてんだァ、クソヤロー」


一瞬、私の隣で伊東さんが嘲笑ったのが分かった。


「幸子から手を離せって言ってんだァア!!」
「駄目!総悟!今暴れたら試合に出れなくなっちゃう!」


竹刀を振り翳し伊東さん目掛けて飛び掛かろうとする総悟を、声を上げて引き止める。
今暴力沙汰にでもなったら、次の大会出場停止は免れない。そんなの絶対に嫌だ。


「美しい姉弟愛。…しかしそれも幻想に過ぎない。何故なら君達は本当の家族ではないからだ」


最後に伊東さんが残した言葉が、頭の中で繰り返し響いていた。




(誰のため)



伊東さんが行ってしまった後、怖くなった私は総悟をそこに残して走り出した。
総悟の顔が見れない。どうやって皆を信じればいいか分からない。自然と涙が頬を流れていく。


「幸子ちゃ……ッ!?」

――キキィイッ!!


目の前で、退が車にひかれたのを見た。――何で?どうして?
私の大切なものが、どんどん崩れ落ちていく。



next


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -