うずくまって泣いてばかりだった小さい頃の私。でも顔を上げると、そこにはいつも私を守るお兄ちゃん達の背中があった。どんな時もお兄ちゃんは傍にいてくれた。

だからもう泣かない、そう決めたんだ。





隣町に新しくスーパーができた。食べ盛りで男盛りな近藤家にとって、開店セールを見逃すわけにいかないだろう。しかも肉が安いときた。よし、今日は特別に焼き肉にしよう。
それに剣道部はもうすぐ全国大会の予選がある。トシ兄と総悟にはいっぱい肉を食べてスタミナを付けて頑張ってほしい。
大量に買い物を終えた私は、破れそうなほど膨らんだエコバッグを持って店を出た。


「…ちょっと買い過ぎたかも」


これからこの大荷物を抱えて家に帰らなければならないと思うと正直気が遠くなる。銀兄に一緒に来てもらえば良かったなぁ。
よいしょと荷物を持ち直して歩き出した次の瞬間、あきらかに駐車違反である場所に停まっていたバイクに袋の端を引っ掻けてしまった。衝撃で、エコバッグからゴロゴロと中身が飛び出していく。


「ああ!トシ兄のマヨネーズ!」


トシ兄のために買った特大サイズのマヨネーズを拾おうと慌てて私は手を伸ばす。
しかしそれを遮るかのように、誰かの足が思いっ切りマヨネーズを踏み付けた。ぐにゃりと可哀相な音を立ててチューブがひしゃげる。ちょっと待て、今絶対わざと踏みやがったぞその足。何すんだコノヤロー!顔を上げて思わず怒鳴つけた相手は、どうやらバイクの持ち主らしいガラの悪そうな男達だった。


「嬢ちゃん俺のバイクに何してくれちゃってんの?」
「オイオイ傷ついてるじゃんコレ、ちゃんと弁償してくれんだろうなテメェ」
「(イラッ!)こんなとこに駐車してる方が悪いんじゃない!」
「ンだとゴルア!」


…しまったアアア!!普段は近藤家の人間と分かればヤクザもビビって道をあけると言うのに、隣町じゃそんなものは通用しないらしい。私の反抗的な態度は男達を完全に逆上させた。
男の一人に胸倉を掴まれ振り上げられた拳にさあっと血の気が引いてく。やばい殴られる、そう思ってぎゅっと目をつぶった。
その時、


「――オイ」


その時、お兄ちゃんの声が聞こえたような気がした。


「お、お兄…ちゃ…ん?」
「こんな所で何をやっている、近藤幸子」


でもどう考えたってそんなのは私の気のせいで、恐る恐る目を開けてそこに見たのは、見慣れない制服の、見知らぬ少年だった。


「大丈夫かい?ああ、もしかして腰が抜けて立てないのか」
「……、」


私は何が起こったのか分からなくて、へにゃりとその場に力無く座り込んでしまった。気付けば私を囲んでいた男達は全員地面に伏している。
呆然とする私に、目の前に立つ彼は手を差し延べた。


「大丈夫なのかと聞いている」
「あの、誰、ですか、何で私の名前…?」


少年は掛けていた眼鏡のその奥から私を見据え、フッと笑った。そして言葉を続ける。


「僕は伊東鴨太郎、…君は、あの“有名な”近藤の妹だろう」



偶然じゃなくて
必然です

(私って、有名人だったんだ)

next






----------
『動乱編』始動!
遅くなりましたがサイト一周年記念の続きものです。


「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -