「山崎ィ、やきそばパン買って来なせェ」
「退〜、私メロンパン食べたい」


こんにちは。山崎退です。
現在昼休み、同じクラスの幸子ちゃんと彼女に会いに来たその弟に俺の机は完全に占拠された。そして今日もこいつらに振り回されているかわいそうな俺。
やきそばパン買って来いだとかメロンパン食べたいだとか、こんなのただの横暴じゃないか。それでも彼らに抵抗する事ができないのは、逆らった後の逆襲が怖いから(幸子の場合恐ろしいのは他の兄弟達なのだが)


「ほらほら、早く購買行かねぇと売り切れちまいやすぜ」
「いってらっしゃい退〜」
「三分以内な」


二人に見送られながら俺は購買まで走った。もう昼休みも半ばに差し掛かっているから注文されたパンが売り切れてる可能性は高い。もし買えなかったら確実になぶられるだろう。
しかし俺の走りの努力も虚しく、無情にも購買のパンは全て売り切れてしまっていた。残念だったねーやきそばパンはさっき近藤の次男坊が最後の一個買って行ったよと購買のオバチャンは笑っていた。チキショーどいつもこいつもふざけやがって!


「ハァ〜仕方ない、近くのコンビニまで行くか」


そもそも何で俺はこんな事しているのだろう。
おかしいじゃないか。総悟さんは自分より後輩であるわけだし、幸子ちゃんは別に俺の彼女とかじゃ、ない、し。


「あ、あれ?」


急にむなしくなって、俺は走るのを止めた。
俺と幸子ちゃんはただのクラスメイトで友達で、幸子ちゃんは俺の事を男子として見てくれた事は一度もないけどでも俺は幸子ちゃんをどう思っているんだろう?俺だって彼女を恋愛の対象として見ていないとは言い切れない。幸子ちゃんは、――それ以上は考えない事にした。
だって彼女はみんなが好きで、みんなが彼女を好きで、俺がどう足掻いたって幸子ちゃんの特別になる事はできない。そしてそれはあの兄弟達も同じなのだ。



コンビニでメロンパンとやきそばパンと自分の昼飯分のあんパンを買って、俺は学校に向かって歩き出す。強い風が吹いて桜の木を揺らした。花びらが散って顔にかかる。ああもう春なのかとぼんやり思った。


「おーい!さーがーるー!」


急に名前を呼ばれて視線を向けると校門の前で幸子ちゃんが大きく手を振って立っていた。


「幸子ちゃん、何してるの」
「何って、昼休み終わっても退が帰って来ないから心配して待ってたんだよ」


腕時計を見ると確かに昼休みは終わっていた。じゃあ幸子ちゃんはどうしてここにいるんだ。
俺のために待っててくれたなんて自惚れてもいいのかな。


「当たり前でしょ。はい、百円」
「え?え?」
「メロンパン代、最初から奢らせるつもりなかったし。わざわざコンビニまで行かせちゃってごめんね」


「ありがと、退」そう言って笑った彼女が眩しいのは春の陽気のせいで、目頭が妙に熱いのは花粉症になったんだ。きっとそうに違いない。



ヤマザキ春のパン祭
(多分俺は、君が好き)(でもこのままの関係でいいと思う)

end


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