昨日から総悟の様子がおかしい。何を話し掛けても上の空で、目を合わせようとしない。それも兄貴にたいしてだけじゃなく、親父や幸子の声にさえ反応しない。
普段は俺が無理矢理引っ張って来たって、まとに練習なんかしないくせに、今日は真面目に部活に出ていた。総悟が黙っておとなしく竹刀を振る姿はとても不気味だ。


「オイ、総悟」
「………何でさァ」
「いや、お前、」
「用がねぇなら、話し掛けないでくだせェ」


「今忙しいんでさァ」そう言って総悟はまた素振りに集中し始めた。やはり変だ。何かあったんですかと山崎が心配そうに声を掛けていたが、相手にもされなかった。


「総悟、何か悩みでもあんのか」
「………」
「良いから言ってみろ、俺はテメーの兄貴だろうが」


総悟は一層憂いを帯びた瞳で俺を見つめて、また遠くに視線を移して、ぽつりぽつりと話し始めた。


「好きな女に愛されてない事ほど、悲しいもんはねぇや」
「は!?」
「それだけの事でさァ」


お前、好きな女なんかいたのか。俺も含めて末期のシスターコンプレックスだと思っていた総悟に、幸子以外に興味を持つ女子がいたとは驚きである。


「俺が幸子以外の女好きになるわけねぇだろコノヤロー」
「じゃあ好きな女って…?」
「幸子でさァ」
「マジでか!」
「幸子はお兄ちゃんみたいな野郎が好きらしいんでさァ、つまり弟の俺には興味ないんでィ」


いやいやいやいや。根本的に何か間違ってる気がする。でも本気で落ち込む総悟を見て、少し可哀相に思えた。
家に帰ってから、総悟は夕食も食べず部屋にこもってしまった。これはいよいよヤバい状態である。





「おはようごぜェやす、幸子」
「総ちゃん、今日は調子良さそうだね!」
「おかげさまで、すっかり元気になりやした」


昨日とは打って変わって清々しい表情の総悟が、朝ご飯を食べにリビングにやって来た。元気になった総悟を見て幸子も安心したようだ。


「天才な俺は最高の解決法を思い付いたんでさァ」
「そりゃ良かったな」
「つまり、あんたら兄貴をこの世から抹殺すれば幸子には俺しかいなくなるって寸法でィ」
「は!?」


その日から総悟の「兄貴抹殺計画」が遂行された。手始めに俺のマヨネーズに毒を盛り、銀時のバイクに爆弾を仕掛け、晋助は屋上から突き落とされかけた。庭の木には五寸釘の刺さった藁人形が三つ。そうか、俺達を呪ったのか。分かってんだぞ総悟コルァ。
胃がキリキリ痛むのは、ストレスのせいか、総悟の呪いのせいか。



兄貴抹殺計画
(頼むから、誰かアイツを止めてくれ)

end


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