俺はとんでもない事に気付いてしまった。

幸子の初恋の相手が辰馬である事は、兄貴として、薄々気付いていた(もちろん俺は認めてなどいない)先日、晋助の馬鹿とつるんでいる河上とか言う男と幸子が一緒に帰宅するところを目撃した。そいつにはただ憧れてるだけだと幸子は言ったがどうも胡散臭い。
この二人の共通点から見出だされる幸子の好きなタイプ。それは――サングラス。


「マダオォオォオオ!!」
「おおー銀さん、この前貸したDVD早く返してくれよ」
「それどころじゃねぇ!いいからテメェはそのグラサン外しやがれ!」
「ちょっ!銀さんんん!?」


グラサンと言えばマダオ。マダオと言えばグラサン。
俺はコイツの住家兼仕事場の用務員室に乗り込んで行って、そのサングラスに掴み掛かった。


「幸子ちゃんの好きなタイプがグラサン!?そんなわけねぇってー」


散々暴れ回って落ち着いた俺は、マダオに事情を説明した。俺の話をコイツは馬鹿にしたように笑うが、俺は至って真剣である。
言われなくても、幸子の好きなタイプがグラサン男なんかじゃない事くらい分かってる。幸子は見た目で人を判断するようなやつじゃない。
多分幸子にとって辰馬は、兄弟以外で最も近い存在だった。ただそれだけの話で、河上万斉は、本当にただのファンなのだろう。


「銀さん達が過保護だから、いつまでも幸子ちゃんに彼氏が出来ないんだろ」
「幸子に彼氏なんて必要ねぇんだよ」


彼氏なんて必要ない。でも、もし幸子に好きな人ができたら、俺達はどうなるのだろうか。考えたくもないね。マダオには分からないだろう、俺のこの悩みは。
俺が深い深い溜息を吐いたその時、嬉しそうに息を弾ませた幸子が用務員室へ飛び込んで来た。


「長谷川さん!私クッキー焼いたんです、一緒に食べませんかっ?」


そして次の瞬間、マダオのサングラスは俺が粉々に粉砕した。



銀兄ちゃんの憂鬱
(マダオォオォオオ!!)



「結局幸子ちゃんは、どんな男がタイプなわけ?」
「私ね、お兄ちゃんみたいな人が好き」
「幸子…っ!」


end


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