「え、侑士帰って来いひんの?」


侑士が電話で今年の正月は帰らないと言った。夏休みぶりに会えると楽しみにしていたなまえはひどく落ち込んだ。
そうだ。侑士は東京に住んでもう長いのだから、帰るという感覚自体間違ってるのかもしれない。


「謙也は、淋しないの?侑士帰って来ないんやで?」
「淋しくなんかないわ、阿呆」


侑士は一人、大人になって行く。それでも帰って来て欲しいと思う俺となまえは、まだまだ子供なのだ。――いい加減、大人になれっちゅー話や。





思えば俺と侑士は何かと張り合っていたような気がする。今もそれは変わらない。ただ、昔みたいに水中息止め競争をしようだなんて阿呆な事は言い出さなくなっただけだ。あれ、言い出したのはなまえじゃなかったか。


「なあなあ、どっちの方が水中に長く潜ってられるん?」
「は?俺に決まってるやろ」
「何言ってんねん!俺のが水泳得意やで!」


小学一年生の夏、三人でプールに遊びに行ったとき、なまえに煽られて始まった息止め対決。結果、二人とも溺れて死にかけて、家に帰ってからそれぞれの親達にこっぴどく怒られた。
俺より数ヶ月だけ早く生まれた侑士は、いつだって先を歩いていて、大人なアイツに負けまいと必死だった。なまえはまた違う。なまえは比較の対象にならないのは、歳を取るごとに感じるようになった男女の差。多分、侑士も気付いている。だから侑士はなまえと距離を置きたがる。俺とはしょっちゅう電話してくるくせに、なまえには滅多に連絡しない。


「あんなぁ、謙也」
「なんやねん」
「私、…白石くんに告白された」
「は!?」


なまえは淋しくないのだろうか。侑士がいない今、少しずつ離れて行くこの距離が。俺はいつまでも傍にいると言うのに、全ては急激に変化して行こうとしていた。
結局俺達は、ただの「イトコ」。それ以上もそれ以下もない。








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テーマ「人外ファンタジー」
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