「やーいやーい泣き虫晋ちゃん」


人前で泣いた事など一度もないのに、なまえは俺を泣き虫だと馬鹿にして笑う。初めは腹が立って仕方がなかったが、今となっては相手にするのも阿呆らしい。何故なら、いつだって泣くのはお前であって、俺は決して涙など流しはしないからだ。
そうだ。なまえは泣いていた。俺のために泣いていた。俺の代わりに泣いていた。


「高杉、少し休め」
「……いや、いい…」


ヅラはそれ以上何も言わず、部屋を出て行った。飯も食わず、二日寝ていない俺は、さぞかし滑稽な事だろう。

敵の刀がなまえに振り下ろされた瞬間、頭の中が真っ白になった。目の前でゆっくりと倒れてくお前は、最後に俺の名を呼んで、そのまま地面に沈んだ。ヅラが敵に切り掛かって行き、坂本が血まみれのなまえを抱えて救護のもとに走る。立ち竦んだ俺は、銀時に怒鳴り付けられても、そこから動けないままだった。


「なまえ…、…っ」


本当は泣きたかった、でも泣けなかった。なまえが言うように、俺は所詮、ただの泣き虫なのだ。


「何泣いてんのよ…気持ち悪い」


だから、いつものように悪態を吐いて笑ったお前の手を、握り締めて離せなかった。お前が生きてるという事を、いつまでも確かめていたかった。お互い驚くほどに冷たい手だったが、確かに俺達はそこに存在していた。


「やーい泣き虫晋ちゃん」
「…ウルセェ、馬鹿女」


俺の涙を知るのは、世界にただ一人。お前だけでいい。



ふがいない
(俺とお前、)

end


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