トシに負けてできた腕の痣は、赤く腫れ上がってヒリヒリと痛む。思わず歪む顔は、鏡を見なくても分かる程醜いものだった。
もし私が男の子だったら。トシにあんなに手酷く負ける事なんてなかった。近藤さんにここに残れと言われる事なんてなかった。


「馬鹿か、お前が男だろうと女だろうと関係ないでさァ」


お前が男だとしても、アイツには勝てないし、絶対江戸には連れて行ってもらえないですぜ。
総悟は私を見ようともせず、江戸に行く準備を続ける。「…そんな事」分かってる、とは言いたくなかった。分かりたくなかった。ぐずぐずと涙を堪える事で精一杯の私は、やっぱりみんなと一緒にはいられないのだ。


「泣いてんじゃねぇやィ」
「…泣いてないもん」
「鬱陶しいですぜ」
「うるさい」
「不細工が余計酷くなりまさァ」
「うるさい!」


こんな事、ただの八つ当たりだって分かってる。本当は羨ましかったんだ。彼らの力強い背中が、堅い絆が。


「総悟なんか嫌い」
「奇遇ですねィ、俺もお前が大嫌いでさァ」


総悟は一瞬だけ私の方を見て、ニヤリと笑った。それは私が大嫌いで、大好きな笑顔だった。
そして次の日、振り返る事なく、総悟は私の前からいなくなってしまった。愚かな私は「さよなら」すら言えなかった。


「総悟なんか嫌い」


もし私が男の子だったら。多分、きっともっと素直に総悟と向き合えたのに。



おいてけぼり
(返らない帰れない)

end


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