新人同期な2人

今日も無事に朝日を拝めて、安堵の息を吐いた。あと何度、鬼の首を跳ねれば慣れるのだろうか。もっと強くならなければ、無理だな。頑張るしかない。
地面の上で大の字に寝転んで空をぼーと見ていれば、視界に派手な色が入り込んできた。目力の強いこと。強いこと。

「お疲れ、煉獄くん」
「無事か!」
「無事です。何とかねー」

この森に来る道中で出会した同期の煉獄くん。彼のお陰で何とか鬼の首を跳ねる事が出来たのだけれど。お互いにズタボロだ。
まだまだ、新人。鍛錬が足りないということだろうか。でも、今日はもう無理だな。たぶん、骨が何本かいってる。

「立てるか?」
「んー、もうちょっと休憩」
「そうか! ならば、待とう!」
「煉獄くんは元気だなー」

煉獄くんは最終選別の時からこんなだ。一際目立っていた。髪色も、声も、実力も。というか、待ってくれるのか。優しいな。

「煉獄くんは今からどうするの? 鍛錬するの?」
「そうだな! 一緒にどうだ!」
「私は無理かなぁ。あばら折れたかも」
「うむ! 奇遇だな!」
「んん?」
「俺もだ!!」

バーン!! と効果音が付きそうな勢いで言い切った煉獄くんに、えぇ……となる。上体を起こして、立っている煉獄くんを見上げた。

「藤の家、行こっか」
「君はそうすると良い!」
「煉獄くんもだよ」
「…………」
「煉獄くんも」
「そうか。名字が言うならそうしよう」

煉獄くんは時々心配になる。何かに急き立てられるように、どんどん前に前に進もうとするから。良いことなのか、悪いことなのか、私には分からないけど。

「ゆったり行こうよ。たまにはさぁ」
「……名字は、」
「んー?」
「ひだまりのようだな!!」
「……? そうなの?」

煉獄くんはニコッと笑うと手を差し伸べてくれる。立つ元気が出てきたので、その手を取った。ゆっくりと手を引いて立つのを助けてくれる煉獄くんに甘えて、ふらつきながらも立ち上がる。

「優しさー」
「当たり前の事だぞ!」
「だから、優しくないの?」
「……。うっ、いや、」
「煉獄くんは優しいよ」
「……そうか!」
「そーだよ」

へらっと笑えば、煉獄くんはどうしてか困ったように眉尻を下げた。あら、初めて見た。そんな顔。

「煉獄くーん」
「何だろうか」
「手はどーするの?」

繋いだままの手をお互いに見る。煉獄くんは凄い勢いで手を離した。どうした。

「すまない!!」
「いや、別に良いんだけど。繋いでいく?」
「……!?!?」
「煉獄くーん??」
「い、行こう!!」

煉獄くんはギクシャクと歩きだす。そんなに繋ぎたくなかったかな。
隣に並んで、煉獄くんの顔を見上げる。真っ赤になっていた。んんー? もしかして、照れたのかな。難しいお年頃である。同い年だけど。
何とも言えない空気になってしまったので、話題を変えることにした。煉獄くんが好きそうな、話しやすい話題って何だろうか。やっぱり、剣のことかなぁ。

「煉獄くんは強いね」
「……? 君も強いぞ!」
「そうかなー。まだまだ鍛錬不足だよ」
「それを言うなら、俺もだ。まだまだ鍛錬せねばなるまい」
「そっかー。煉獄くんは凄いね」

煉獄くんはきっと、そのうち柱とかになる人なんだろうと思う。こうして、隣を歩くこともなくなるのかな。そうなったら、少し寂しい。その気持ちが顔に出ていたらしい。煉獄くんに「名字!!」と呼ばれて、はっとする。

「え、あれ?」
「どうした。傷が痛むのか?」

心底心配したように眉尻を下げる煉獄くんに、パチパチと瞬きをする。安心して欲しくて、へらっと笑ったけど通用しなかったらしい。めちゃくちゃ真剣な顔をされた。

「えっと……」
「我慢する必要はない!!」
「うん、違くて」
「背負っても構わないぞ!」
「うーん……」

手を繋ぐのは駄目だけど、背負うのは良いのか。難しいな。
この寂しいという自分勝手な感情を煉獄くんに教えるつもりは微塵もない。どうして寂しいのかと聞かれたら、いまいち答えに困るのもある。……同期だからなのかな。気軽に話せなくなるから? うーん……。

「煉獄くん」
「うむ! 背負うか?」
「背負わなくて良いよ。煉獄くんも負傷してるのに」
「これくらい平気だ!!」
「えぇー。じゃあ、手を繋いで欲しいかなー」

煉獄くんが衝撃を受けた顔で固まる。立ち止まった煉獄くんに合わせて、私も止まった。葛藤するように、言葉に詰まった彼を見上げる。

「煉獄くーん?」
「そ、れは……」
「うん」
「駄目だ!!」
「駄目なのか」
「いや、待ってくれ、その、転ぶと危な、しかし、」

考えてる事が全部口から漏れている。煉獄くんにはこんな一面もあったのか。可笑しくなって、声を出して笑ってしまった。

「いいよ。いいよ。無理しなくて」
「…………」

ヒラヒラと手を振って、大丈夫だと示す。その手をガッシ! と掴まれた。突然のことに、肩が跳ねる。

「いや!! 足場が悪い!!」
「う、うん?」
「繋いで行こう!!!」

大音量の声に、ちょっと耳がキーンとなった。こくこくと頷いた私を見て、煉獄くんが私の手を引いて歩き出す。それに引っ張られるように私も歩き出した。
ちょっと小走りに隣に並ぶ。煉獄くんの顔を覗き込むとやっぱり真っ赤になっていた。これは、私だからなのか。単純に女の子の手を掴んでいるのが恥ずかしいだけなのか。
どちらなのかは、煉獄くんにしか分からない。聞くのは流石にちょっとな。ただ掴まれているだけの手に視線を移す。

「煉獄くん、煉獄くん」
「何だろうか?」
「手ぇ繋いで欲しいなー」

ばっと煉獄くんがこちらを向いた。逡巡したのち、手の甲を覆うように掴んでいた手が離れて、子どもが手を繋ぐように握り直される。それが嬉しくて、ニコニコしてしまった。

「ありがとう」
「うむ!」
「やっぱり煉獄くんは優しいね」
「……そうか」

煉獄くんは、燃えるような瞳に喜色を滲ませる。嬉しそうに、柔らかく笑ったのだった。
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