後輩くんはよく分からない

今日は日曜日で学校は休みなのだけれど、部活があったために私は今、並中に居た。部活も終わり、家に帰ろうと校舎を出る。瞬間、吹き抜けた冷たい風に足を止めた。
はぁ……。吐き出した息が、白くなって空に登っていく。ぼんやりとそれを眺めて、目を細めた。
明日は、とても寒くなるらしい。いや、今日の夜から、が正しいのだけれど。今朝の天気予報のコーナーで、一晩中雪が降ると言っていたお天気のお姉さんを思い出しながら、曇天の空を見上げた。

「積もるのかなぁ」
「何してるの?」

ぽつりと溢した独り言に返事が返ってきた訳ではなかったけれど、どうやら私にかけられたらしい言葉。それに反応して、顔をそちらに向けた。
そこにいたのは、我が校が誇る問題児、じゃなかった。1年生として入学してきたはずなのに、何故か3年生として学校を牛耳っている、風紀委員長の雲雀くん。一応、後輩である。

「こんにちは、雲雀くん」

へらり、笑えば雲雀くんの眉間に皺が寄った。あらやだ、こわい。

「聞こえなかったのかい?」
「何してるの?」

雲雀くんが言った言葉をそのまま繰り返しながら、首を傾げた。雲雀くんは、答えを促すように、睨んでくる。睨んで、る? もともとそういう顔なのかな。

「私はね。部活の帰りだよ」
「そう」
「今日は、友達が急いで帰らないといけないらしくて、1人なのですよ。嬉しい?」
「意味が分からない」
「いや、雲雀くんは群れてるのを見るのが嫌いだから、ね?」
「……別に」

ぷいっと顔を背けた雲雀くんに、首を傾げる。あれ? 私が1人だったから声をかけてきたんだと思ったのに。はて、何なのだろうか?
しかし、考えてみた所で雲雀くんの考えてる事なんて、まったく全然分かりそうもなかったので、早々諦める。
雲雀くん。彼の名前が白くなって空に登っていくのを追いかけて、再び空を見上げた。

「明日は、並中も雪化粧でお洒落をするのかなぁ」
「…………」
「積もったら良いね」
「積もったら、雪合戦でもしようかな」
「ゆきがっせん? 雲雀くんが?」
「群れてる標的に一方的に雪を投げるのさ」
「それは果たして雪合戦なのだろうか」

その光景を想像して、眉根を寄せる。雪玉を投げている雲雀くんは可愛い。しかし、全体としてはただの惨状というかなんと言うか。
もし雪が積もれば、テンションが上がって、きゃっきゃうふふと遊ぶ集団も少なからずいるわけで……。わぁ、悲惨だ。
明日は大人しく、教室で友達と談笑でもしようと心に決めた。瞬間、また冷たい風が吹いて、思わず縮こまる。

「うー、寒い」
「早く帰りなよ」
「ん? うん。雲雀くんは?」
「僕はまだ、仕事が残っているからね。暇な君と一緒にしないで」
「いやいや、私も部活で暇ではないよ?」

私の言葉を華麗に無視して、雲雀くんは校舎とは違う方に歩き出した。まだ、見回りがあるんだなぁ。大変だ。と雲雀くんの背中を眺める。うん、寒そう。

「雲雀くん!」

思わず雲雀くんの背中に声をかけて、走り寄る。雲雀くんは、それに反応して足を止めてくれた。あらまあ、珍しい。
正面に回り込んで、向かい合う。雲雀くんは不機嫌そうに、何なんだという目で見てくる。私は見なかったふりで、自身の首に巻かれていたマフラーを外して、雲雀くんの首にかけた。
雲雀くんも流石に驚いたらしくて、切れ長の目が見開かれる。それも見なかったふりで、くるくるとマフラーを巻いた。

「馬鹿なの?」
「寒いからねー。風邪ひいちゃうよ?」
「それは、」
「私はあと、帰るだけだから、ね?」

何か言いたげに、けれど口を閉じた雲雀くんは、またぷいっと顔を背ける。あれ? 怒ったかな。けど、マフラーは白を基調とした落ち着いた色合いのものだから、男の子がしても大丈夫だし。
トンファーがとんでくるかと思っていたけど、そんなことはなくて。暫く無言だった雲雀くんは、マフラーに手をかけて躊躇なく取ってしまった。

「あー! こら、止めなさい!」
「うるさい」

べしっと顔面に返ってきたマフラーを慌てて掴む。白なんだから、落ちたら汚れる。

「子ども扱いしないで」

その言葉に、雲雀くんの顔に視線を戻す。ムスリ、そんな効果音が付きそうな感じに、雲雀くんはむくれていた。

「後輩だもん。私よりは子どもだよ」
「僕の方が学年は上だよ」
「んな無茶苦茶な。しかも、今年の4月から私も3年生だし」
「僕の方が偉い」
「えぇー、あー、うん。敬語で喋れって言ってます?」

沈黙。何故なんだ。雲雀くんは眉根を寄せて、私を睨んでくる。これは、睨んでる。本気で睨んでいる。今度こそトンファーかと病院行きを覚悟した。しかし、何故。

「…………別に」
「ん?」
「好きにしなよ」
「え? あっ、雲雀くん!?」

するりと私の横を通り抜けて、今度こそスタスタと歩いて行ってしまった雲雀くんに、呆然と立ち竦む。
雲雀くんは、よく分からない。暴君のように、トンファーを振るうと噂(というか、実際にそうなのだけれど)なのに、私にはあぁやって、不機嫌そうな顔をするくせに、何もしてこない。

「気に、いられて、いるの、だろうか」

いや、でもまさか。それこそ謎である。好かれる要素が何1つない。んー、雲雀くんは本当によく分からないなぁ。
吐き出した溜息が、ふわりと白く漂って、空へと消えた。
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