カロケリの懐かしき

※雲雀さんの祖父捏造してます注意

自然豊かなこの町には、大きな大きなお屋敷が立っている。昔ながらの日本家屋を大人達は、なんて立派なんでしょうと口を揃える。
そこは、“ひばりさん”というお爺さんのお家で。何でも凄い人らしいけど、私にはよく分からない。
ひばりのおじーちゃんは、ほんけ? がどうとか。息子さんに任せてきたとか。いんきょ? の身とか教えてくれたけど、半分も理解できなかった。

「ひばりのおじーちゃん! こんにちはー!」
「はい、こんにちは。今日も元気だねぇ」
「す、すみません。コラッ、やめなさい!」
「えぇー!」
「いいよいいよ。可愛いねぇ」

ひばりのおじーちゃんは良いって言うのに、お母さんは毎回怒るんだから。思わずむくれそうになる。でも、見慣れない男の子を見つけてそんなのどっかに飛んでった。

「男の子がいる!」
「あぁ、この子は孫でね。恭弥、挨拶しな」
「…………」
「はじめまして!」
「まったく……。この子は恭弥だ。同い年だから、仲良くしてやってくれるかい?」
「うん! よろしくね! きょーちゃん!」

手を差し出した私に、きょーちゃんは首を左右に振る。そして、一言。「よろしくしない」そう言ったのだった。


ぼんやりと昔の事を思い出していれば、手元でカランッと小気味いい音が鳴って、現実に引き戻された。音の出所に視線を遣る。
よく冷えた特徴的な瓶の中には、ビー玉。そして、半分以上ラムネが残っていた。暑い日に飲むラムネは美味しい。
駄菓子屋の前に設置されたベンチに座り、部活終わりの1本。丁寧に和傘付きなので、陽射しを防いでくれて休憩するのにもってこいの場所なのである。
とは言っても、夏本番。日陰の中にいても、じわじわと暑い。流れてくる汗をタオルで拭って、ラムネに口を付けた。
口の中で炭酸がしゅわしゅわと弾ける。ビー玉が瓶とぶつかり合い、さっきよりも良い音が耳朶に触れた。夏だねぇ。

「やぁ」

一瞬、蝉の声が聞こえなくなったかのような。そんな錯覚。低く涼やかな声に顔を上げた。

「雲雀さん家のお孫さん」
「最近その言い回し、気に入ってるの?」
「そういうんじゃないけど……。怒られたくないので」
「ここには、怒る人間はいないのに?」
「まぁ……。それは、そうだけどさー」

この辺りのではない夏用制服に身を包んだ恭ちゃんが、ベンチへと視線を遣る。隣を占領していた鞄を私の膝上に移動させると、空いたそこに腰掛けた。

「この前も遊びに来てなかった? 暇なの?」
「そんなわけないだろ」
「だってさ。蛍を見に来たとか言って、一緒に見に行ったよね??」
「6月の話だよ」
「あー……。そうだっけ?」

今は夏休み中だから、結構前ではあるか。恭ちゃんも夏休みだから、この前とは違って何日かこっちに泊まるのだろうか。いや、恭ちゃん地元大好きだから帰るかな。

「ラムネ飲む?」
「いらない。炭酸は好んで飲まないからね」
「お茶が似合う男だよね」
「なにそれ」

呆れたような声音に、こっちは可笑しくなって笑う。瓶を意味もなく揺らせば、ビー玉が楽しげな音を立てた。

「今さ。恭ちゃんと初めて会った日のこと思い出してたんだけど」
「相変わらず君は忙しなく話題が変わるね」
「そうかな。まぁまぁ。それでね」
「……うん」
「『よろしくしない』って言われたのに、何だかんだで一緒にいるの不思議だなぁって話」
「…………」

何故か恭ちゃんが黙り込む。それに、首を傾げた。変なこと言ったかな。ただの思い出話のつもりだったんだけど。

「えっと……。この後、予定ある? 夕焼け広場にでも行く? いい天気だから、綺麗な夕日が見れるよ」
「……いいよ」
「いいんだ。じゃあ、着替えて集合しよう」
「なぜ? このままで問題あるの?」
「あぁ、うん。恭ちゃんは相変わらず学校好きだねぇ。制服以外見たことない」

学生なんだから当たり前だろみたいな顔してる。学校ない日にその格好してるの恭ちゃんくらいだよ。まぁ、悩まなくていいのは楽だけど。

「夕暮れまで何するのさ。動きたくないよ」
「軟弱」
「頑丈」

待って。頑丈って別に悪口になってなくない? 寧ろ、褒めてない? いや、別に褒めてはないのか。暑くて頭が回ってないのだろう。そんなことを無駄に考え込んでしまった。

「夏は暑い」
「当たり前だろ」
「冷たい」
「何がだい?」
「恭ちゃんが」
「…………」

恭ちゃんが会話を強制終了させたタイミングで、駄菓子屋からおばあちゃんが出てきた。重そうにバケツを持っていたので、直ぐに手伝いに行く。

「おばあちゃん、打ち水するの?」
「そうだよ」
「私がしよーか?」
「いいよいいよ、座ってなぁ。暑いでしょう」
「打ち水したら涼しくなるって。私にお任せあれ!」
「そうかい?」
「うんうん」

おばあちゃんから柄杓を受け取って、地面に置いたバケツから水を掬う。灼熱になっているアスファルトの上に水を撒いた。水を見てるだけでも、心なしか涼しくなった気がする。

「動きたくなかったんじゃないのかい?」
「そんなこと言ったっけー?」
「何で昔のことは忘れないのかな……」
「え? なに?」
「別に」
「……?」

何故かムスッと拗ねてしまった恭ちゃんに、キョトンと目を瞬く。そんな要素どこにあったよ。謎過ぎると、こちらも眉根を寄せたのだった。

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