ロクァースなど無くとも

あの子が死んだらしい。今回の抗争は特段激しく、別におかしな話ではなかった。
ボンゴレと風紀財団の橋渡し役を押し付けられた彼女は、親が裏社会の人間で元々こちら側の住人だった。水が合うのか、飄々と上手くやっているように見えた。
ボンゴレの下っ端。使いっぱしり。僕の中でのあの子はそういう立ち位置だった。ただ、前線に出る子ではなかったから、少しだけ驚きはした。
沢田綱吉は、あの子は巻き込まれただけだとそう言っていた。使いに出した先で、戦闘に巻き込まれたと。行方不明なだけで、まだ生きている筈だとも。そんな訳がないと分かっている顔で、そう言った。
無駄話の多い子だった。用があってもなくても、軽薄そうな笑みを浮かべて僕に声を掛けてくる。“おしゃべりしましょうよ〜”などと、ふざけたことしか言わない子。

――――ヒバリさ〜ん

名前を呼ばれた気がした。いつも通り、軽い調子のあの子の声に。
思わず振り返った先には、誰もいなかった。当たり前だ。あの子は死んだ。もう、どこにもいないのだから。

「恭さん?」

哲が僕を呼ぶ。それに、首を軽く左右に振って答えた。らしくなくて、目を伏せる。騒がしいあの子がいなくなって、せいせいしたと思ったんだけどな。
静かすぎる廊下を再び歩き出す。隣から聞こえないあの子の声に、溜息が溢れた。この静寂が当たり前に戻る頃には、忘れることが出来ている筈だ。
今日でこの抗争も終わる。敵ファミリーの幹部が相次いで謎の不審死を遂げているとの情報が入ってきた。十中八九、暗殺されている。

「誰が……」

ボンゴレは巨大な組織だ。どこの誰が味方か。沢田綱吉が把握しきれていない可能性は大いにある。まぁ、赤ん坊は分かっていそうな雰囲気だったけど。
そうだな。折角だから、あの子の墓前に供えてあげよう。敵ファミリーのボスの首を。


至るところで、硝煙が上がっている。思ったよりも楽しめなかったと、衣服の乱れを正した。まぁ、敵ファミリーの主戦力がいなくなったのだから、この程度か。

「勘弁してくださいって〜!」

ふと、戦場に似つかわしくない緩い声が耳朶に触れた。

「あっ! ボス、助けてください。ヴァリアーの勧誘がこわ〜い」
「え!?」

沢田綱吉が叫ぶように、あの子の名前を呼んだ。まさかと顔を上げる。そこには、確かに、あの子が存在していた。彼女は沢田綱吉の勢いに驚いたように、目を丸めている。

「えぇ!? どうしたんです?」
「よか、よかった、生きてた……」
「はい? クロームさんから伝言、聞いてません?」
「え? クローム??」
「任せてくださいって」

端的すぎる。普段は無駄話ばかりなのにね。「聞いたけど! 分かんないから!!」という沢田綱吉の絶叫が響いた。

「どこで何してたの!?」
「あれ? ボ〜ス、さては私の話聞いてなかったですね?」
「え?」
「最初に言ったでしょ? 私の家系は、暗殺専門って」

彼女が見たことのない顔で、ゆるりと笑む。しかしそれは一瞬で、次の瞬間にはいつも通りの間抜け面に戻っていた。

「とは言っても? ボスが嫌がるだろうから、私は情報収集してヴァリアーの手引き、とかしかしてませんけど〜」
「君みたいな大根役者に、そんな芸当が出来るのかい?」
「あれま、手厳しいですね〜。ヒバリさんは」

会話に割って入った僕に驚いた様子もなく、へらへらとした軽薄そうな笑みが返ってくる。どこまでが嘘で、どこからが本当なのか。

「大根だと思われてたとは……。まぁ、ヒバリさんに嘘吐くつもりはないんで。別に良いかな〜」
「……そう」
「そうです」
「じゃあ、いいよ。僕の所においで」
「……んん??」

彼女が不思議そうに瞬きを繰り返す。どうやら、僕の前で見せる姿は嘘ではないらしい。無駄話の多い。おしゃべりな子。

「使いっぱしりなんて、勿体無いだろ?」
「えぇ〜!? 私はゆる〜く、良い感じに生きたいんですよ。勘弁してくださいって〜」
「いやだ。知らない」
「そんな馬鹿な」

軽薄さに隠された、獰猛な素顔も興味はある。けど、それよりも……。

「何ですか。もしかして、私がいなくて寂しかったんですか」

彼女の言葉に、ここ数週間のことを思い出す。そして、先程のことも。認めるのは、酷くムカつくな。彼女も自分で言っておいて、そんな訳がないでしょと言いたげだ。

「そうだ。と、言ったら君は僕の所に来るの」
「んぇえ??」

彼女が今まで知る中で1番、間の抜けた声を出す。まぁ……。君がどこにも行かないと言うなら、君の要望は考慮してあげてもいい。

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