召使の小さな足掻き
「比呂士先輩!兵士がもうすぐ近くにまで来てるッス!」
「予定通りですね。さすが潤斗君」
撤退の準備をする兄達を尻目に、俺は誰にも会わない様に荷物を待ってその場を去る。
数時間前、黄ノ国の兵士が攻め込んで来た。
ついに来たんだ。俺が革命へのいけにえになる日が。
『数日後、黄ノ国が攻め込んで来ます。貴女はそこで、黄ノ国の兵士に殺されなさい。』
兄に緑色の紙が届いた時からずっとそのセリフを聞いた。
ジャッカルが言うには、城の内通者からの手紙だって…
「ハァッ…ハァッ…」
兄には内緒で赤也とブン太に渡された黄色い封筒を持って街の裏通りにある井戸に走る。
どうせ殺されるなら、ただの兵士より、アイツに…
潤斗に殺されたいから…
「潤斗?! …っ!!」
井戸に着けば、手紙に書いてあった通り確かに潤斗は居た。
足元に俺と同い年ぐらいで同じ様な髪を持つ少女の死体を転がして…
「邑… 来てくれたんじゃな」
潤斗は安心と悲しみが混ざった様な複雑な顔を浮かべたまま、俺が持って来た荷物から俺が今日着ていた服を取り出し、足元の少女に着せていく。
コイツ、まさか…
「その娘を私の身代わりにするの?」
「……口調、元に戻しても良いよ」
潤斗は小さく頷いてから、そんな事を言う。
「話し方に違和感があるとは思っていたが… まさかお前もとはな」
完全なる素で話せば、少し驚いた後「そこまで見抜かれたのは初めてだよ」と笑い出す。
(「ここまでの性格なのは予想外だったけどね…ι」って苦笑いされたけど、んな事知るか)
俺、本当に潤斗のことが好きだなぁ…
だってこうやってるだけでも心が暖かくなる。
でも、今の俺達には時間が無い
「邑、馬は乗れる?」
「ハッ、俺様を誰だと思ってる」
「そうだね」
潤斗はまた少し笑って、話を続ける。
「この井戸を下りると地下水路があるんだよ。
水路の方を見て右側に真っ直ぐに進んで、5番目の梯子を上れば比較的落ち着いた所に僕の馬がある。
それに乗って、革命が終わるまで身を隠して。」
俺に説明をする間も、潤斗は着々と準備を進める。
少女を着替えさせ、俺に似せて化粧もさせる。(めっちゃ似ててビビった)
潤斗に金が入った小さい袋を渡され、俺は潤斗が本気だという事実を押し付けられた。
なら、俺もそれに答えて本気で隠れてやろう。
いつも首に着けている王子から貰ったネックレスももう要らない。
少女に着けて、持っていた潤斗からの手紙も手に握らせる。
「じゃあな、潤斗」
「じゃあね、邑」
自然とお互いにキスをして、俺は井戸を下りる。
やっと分かった、潤斗に引かれた理由が。
潤斗は王の為、俺は革命の為…
哀しい運命を背負って、お互いに自分を偽ってた…
「じゃあ…な…!」
着地した時に跳ねた水の他にポチャンッと音がして、水路に広がる波紋を尻目に俺は右に走った。
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