契約
今日この屋敷に来た男。
その男に抱きしめられた瞬間、僕は男にもたれ掛かった。
ああ、心臓が凄くドクドクいってる…
いや、心臓ではない、か…
だって心臓は嬉しそうに僕を抱きしめる男が持ってたナイフで止めた。
血と汗が混じって、紫の滴へと変わっていく…
これがあの悪魔が言ってた『契約の終了』か
刺されたナイフから血とは違う何かがジワジワと僕の身体の中に広がって行く…
それと同時に次々と屋敷から出ていく男達の中に、ヒロシを見付けた。
「潤斗君!!」
ヒロシがこっちに来る…
良かった…
俺な、まだ誰にも『好き』って言ってないんよ
僕は最初から一人だけ…
―――にだけに言おうと思ってたから…
「好きだよ…、――」
また誰かが出ていく足音を見ながら、目の前の幸せそうな顔を見る。
大好きだった綺麗な藍色の髪が近付いて、「ずっと一緒だよ」って言う。
ああ、もう一人じゃないんだ…
僕は安心して、眠りについた。
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目の前の光景が信じられなかった…
今日はまた新しい男が来る日だと様子を見に行ったら、潤斗君は抱きしめられていた。
それくらいはいつもの事だと思って居ましたが、いつもとは違った…
床に一滴の血が零れた。
それと同時に潤斗君の胸に広がって行く血と、もたれ掛かる潤斗君…
「俺…こんな所で何してたんだ…?」
「ブンタ君…?」
いや、ブンタ君だけではない…
この屋敷に居た全員が、ついに崩れ落ちた潤斗君とそれを抱きしめる男に見向きもせずに次々と去って行く…
「潤斗君!!」
駆け寄って気付いた。
潤斗君を抱きしめる男の… いや、悪魔の正体に
「セイイチ君…?
何をしているんです!!早く潤斗君を離し…」
私の声は、小さな今にも消えそうな声に遮られた。
「好きだよ…、セイイチ」
「え…」
立ちすくむ私を嘲笑うかの様に笑って彼は私へと向き直る。
「ヒロシ、残念だけどここで契約は終了だ。
お前が払った代価は、お前の1番大切で俺が1番欲しかったモノ…
潤斗の中の、お前の場所だ」
ああ、何故気が付かなかったのだろう…
この悪魔の本当の目的に。
これでは潤斗君を救い出す事はおろか、彼の前に立つことすら…
私は逃げた、もう潤斗君を見ているのが辛かった。
振り返った潤斗君と過ごした悪魔の住む屋敷と呼ばれる場所は、本当の悪魔が住む屋敷となってしまった…
あの日以来、私は潤斗君とあの悪魔の姿を見ていません。
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