最後の晩餐
数ヶ月が経ち、近くの街には「あの館に行くと喰われる」等と噂が現実味を帯びて拡がり始めた。
いくら給料を上げて人を呼んでも集まらなくなったのが良い証拠じゃ。
使用人達は少しずつ確実に邑の腹の中に消え、いつしか館には邑と俺しかおらんくなった。
それでも邑は『食』を求め続けるから、俺も『食材』を提供する。
「邑、今日の晩餐はどうする?」
「肉」
「なんちゅーアバウトな…ι」
軽く溜め息をついて、車椅子を動かし厨房へ向かう。
扉を開けようとすると、邑はいつもバランスが取りづらいのを考慮して開けてくれる。
「いつもすまんのぅ」
「良いって、お前の足美味かったし。」
「どした?邑」
背中に温もりを感じて、出来る限り振り返る。
顔は見えんが、きっと笑っているんじゃろう。
「潤斗…
オ前ノ全テガ欲シイ/喰イタイ」
「…おおせの通りに」
目を閉じれば肩と頬に手を添えられ、戸惑ったんかは分からんが一拍間があった後、首に激痛が走った。
さぁ、今日も究極にして至高の悪食(あくじき)が始まる…
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「残したら、お前怒ったもんなぁ」
ま、残した事なんて片手で数える程も無かったんだけどな
なぁ、って笑いながら振り返るけど、誰も居ない。
「あー、マジで一人かぁ…」
それでも俺の腹は空腹を訴える。
保管庫の『食材』ももう喰い尽くしたし、いっそのこと猫とかネズミでも良いから何か喰いたいな…
屋敷中を歩き回り、鏡の前を横切った時、『ソレ』は現れた。
「ナンダ マダ タベルモノ アルジャネェカ」
ニタリと狂気に満ちた笑みを浮かべた彼女が覗き込む鏡が映したのは、哀しみと恐怖に歪んだ顔。
そんなものに目もくれず彼女は自分の右手にかぶりついた…
コンチータの最後の悪食(あくじき)…
食材はそう、彼女自身。
『食』を極めたその身体の、
味を知るものはすでにいない…[ 34/42 ][*prev] [next#]
[mokuji]