悲しみの王



ガチャッ「潤斗!」


「ただいま、精市」



潤斗が緑ノ国へ攻め込んで2、3日経った日、潤斗が帰って来た。



「遅いから、帰って来ないかと思った」


「精市が帰って来いって言ったからのぉ」



潤斗から報告を受けた後、潤斗を部屋に戻らせた。



「何で帰って来ちゃったの…」



あの茶会で、前に街で見た女と嬉しそうに話してる潤斗を見た。

あの女も、潤斗に好意を持っているのは明らか。


だから、せめて2人で逃げてと思って潤斗も兵士と一緒に攻め込ませたのに、僕はズルイ事をした…



『帰って来て』



直前に、潤斗にそう言ってしまった。

俺のお願いを、潤斗は必ず成し遂げると分かってて…



「ごめん…ごめんね潤斗…!」



君にこんな哀しい思いをさせる為に緑ノ国へ行かせたんじゃない…

でも…!



「君を失うのが…怖かったんだ…!」



それでも潤斗はきっと『笑って』って言う。


だから俺は笑う。

何も知らないふりをして、無邪気に笑う。









もうすぐこの国は滅ぶ。

怒れる国民と悲しみに暮れる王子の手によって。



「もう終わりか… 案外早かったね」


「精市」


「ほら、潤斗も逃げなよ。他の大臣達はもう逃げ出したよ?」


「精市」



潤斗はさっきから俺の名前しか呼ばない。


ただ座ってる俺の前に立って俺の名前を呼んでるだけ。


早く…早くしないと城を囲んでる兵士が攻め込んで来るのに…!



「大丈夫。俺は神の子だよ?だから潤斗は早く逃げ「精市!!」



潤斗はやっと動いた。


逃げるんじゃなくて、更に俺の元に近づいて来る。



「精市、ちょっと目をつぶっときんしゃい」



戸惑いながら目をつぶれば、一瞬だけ液体がかかった感覚がした後、すぐに渇いたのか、何も感じなくなった。



「え…」



目を開ければ、まず目に入ったのは俺の髪。

いつもの藍色じゃなくて、潤斗の様な綺麗な銀色…



「俺の服を貸しちゃる。これを着て早う逃げんしゃい。」



……何を…言っているんだい…?

だって、こうなったのは俺のせいで… 俺が王だから…!



「違う。元は、あの2人から守れんかった俺のせいじゃ」



そうこうしてる間にも潤斗は俺を着替えさせる。


さすがだね、潤斗…

もう十年も俺の世話をしてれば、抵抗する俺を着替えさせる事なんてたやすいかい?



「大丈夫。俺は詐欺師じゃ。きっと誰にもバレん」



違うんだ、そうじゃない…



「お前さんを悪だって言うなら、俺だって同じ血が流れちょる」



違う… 同じ血が流れてるってだけで望弥まで悪にならなくて良い…!

報いを受けるのは俺だけで良いんだよ…!?



「馬屋に行けば弦一郎がおる。後は弦一郎と何処か遠くへ逃げんしゃい」



嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ!!

一緒に居てくれるって言ったじゃないか!!周りが敵になっても望弥が守ってくれるって言ったじゃないか!!



「精市、また生まれ変わったら―――」



無情にも、扉は閉じられた。




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