そして、繰り返す|不死鳥に恋をする

頭痛に苛まれ、ようやく身を起こし、現状を悟った。
―――失敗した
なぜそんなことを思ったのか、その時は分からなかったが、いまなら分かる。
肉が削げ落ち、骨が風で舞い、もはや人とは呼べぬ子孫たち。
贄となるはずだった少女は混乱に便乗して逃げ、なんとか死守しようとした御神体は破壊されていた。
―――なぜ、こうなるのだ
腹の底から湧いてくる怒りに、肩をわななかせた。
あと少しのところだったのに。あと少しで私の願いは叶えられるはずだったのに。

川のほとりで、余所者の少年に出会った。
胸には傷があり、一目見てあとは時間の問題であることが伺えた。
それでも救おうと思えたのは、あの男が脳裏にいたせいだろう。
神代家の母娘の家庭教師をしていた、あの男。
地味めで決して顔のいい男とは言えなかったが、聡明そうなその顔には好感が持てた。
ただ、勘の鋭いところが暗部の目についてしまった。

彼は決して頭の悪い男ではなかった。
少し田舎者らしさが鼻に付くかもしれないが、きっと村の外で上手くやっていることだろう。
ふと、最期にみた男の顔を思い出す。
普通にしていれば生真面目な顔に、ヘラヘラした笑顔を貼り付けていた。
ただ、不快感を覚える笑顔ではなかった。
少なくとも、女子供には好かれる笑顔だ。人懐っこさがある。

その少年もそうだった。
混乱し、疲弊した少年も、笑えば人懐っこそうな顔をしていた。
だから助けてしまったのかもしれない。
それが命取りになってしまうとも知らずに。

神代家の次代当主が消えたのとおなじ青い炎に包まれ、力なく地に伏した神。
その神の首に向かって、少年は最後の力を振り絞るように刀を振り上げた。
―――やめて
そう叫ぼうとした。
だが声がでなかった。
急激に身体が衰えていくのを感じる。
視界がぼやけ、垂直に立てなくなった。
嫌、彼女たちのようになるのは嫌―――
膝を折ると、目の前に神の首――御神体が転がってきた。
少年はそれに気が付いていない。
力なく歩みを進め、ふわりと消えてしまった。

御神体を掴む。その手はすでに若さを失い、まるで松の木のようだ。
届けなければ。この首を必要としている"時代"へ。
いつまでこの呪いは続くのだろうか。
それは、呪いの元凶である自分にも分からない。

(生。死。出会い。別れ。愛し。愛され。再び繰り返す。永遠に永遠に。)


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