朽ち果て逝く者|不死鳥に恋をする

「澄子、お願いやめて…」

少女の悲痛な声が、いまだに耳にこびりついている。
その少女の葬儀は、神代家とその関係者だけで行われた。
少女の姉が棺に泣き付いているのを見る限り、その姉妹仲は良好だったことが伺える。
それには澄子だった自分も同情するが、神代家に産まれてしまったことには当然の運命だ。
己の呪いを解くには必要なこと。
不思議なことに、この呪いには村に自分を存在させるための力を働かせるらしい。
ここの村人たちは、新しい求道女の存在にも気が付いていない。

少女はまだあの地下室に居る。不気味で暗く、湿っぽい地下室。
この村の暗部を担っている宮田医院のものだ。
だが、いまの宮田医院の地下室を調べたとしても、少女を見つけることはできない。
儀式が失敗しない限り、少女の行方は誰にもわからないのだ。
そんなことは二度と許さないと、自分に戒めるように呟く。

「こんばんわ。美耶子様のことは、ご愁傷様でございます」

少女の姉、佐矢子の家庭教師としてよく神代家に足を運んでいた男。
その生真面目そうな顔に張り付けていた、ヘラヘラした笑顔は今日はない。
代わりに哀しさを漂わせた表情を浮かべさせ、悔やみの言葉を述べている。

「美耶子様のお顔は、今日もご覧になれないのですか」
「ええ。神代家の一存で…」

残念そうな顔を浮かべるがそこまで執着していないようで、それ以上聞いてはこなかった。
妹の顔を見れない事には、佐矢子も抗議をしていた。
見せることなどできない。棺の中に、彼女の骸はないのだから。
神代家は、彼女の亡骸は土砂に巻き込まれ、人目に触れさせられる状態でないと説明している。
おそらく向こうでも、少女は見るに堪えない姿へ変貌し始めているころだろう。
彼女たちは死の呪いしか受け継がれておらず、老いだけが進んでいく。
肉が腐り、骨が砕け、村から彼女の存在が忘れ去られても、魂だけはこの世に存在する。
なんて哀れな者たちなのだろうか。

男に一礼し、棺の納められた穴の隣へ出る。
生贄を逃した女は村から去った。
代わりに新しい求道女が現れたとしても、彼らはそれに気が付くことはない。
今まで目にも留めていなかった女に、彼らは視線を集める。
その隣には儀式の失敗によって、その生命を絶たれようとしていた求導師がいる。
彼とその妹が赤子を連れてきたことには驚いた。
だがそんな彼の表情に、納得のいかないような、不安げなものが見え隠れしている。
おそらくあの赤子たちは、向こう側から奇跡的に戻ってきた者だ。
そんな彼らに命を繋がれた求導師が、"亡くなった生贄"に祈りの言葉を継げる。

失われし者は我々の肉と血の中に生き続ける
楽園の扉は開かれ、魂は永劫の刻の流れに迎えられるだろう

(また一人)


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