道祖神@|道祖神は何も語らず

さっきからずっと同じところを回っている、ようやく足を止めた名前はそう確信する。
木々に遮られているとはいえ、炎天下の中を延々歩いていたせいで、額には汗が玉になって浮いていた。
ときおり落ちてくるそれが目尻やまつげをくすぐって、思わず顔を振るう。

「圏外、か。そうだようなあ」

機種変したばかりのケータイの画面を開くも、やはり、というわけだ。
こんな山奥にまで入ってきているのだから当たり前である。
名前もそれは覚悟の上だったから、あまり腹を立てたり苛立ったりすることはなかった。

足下にある、地蔵のような絵が彫られた石像を見遣る。
地蔵の詳しい効果は知らないが、この石像も似たようなものなのだろうか。
少なくとも道しるべではないことは百も承知だ。

「あのお、困ってるので助けてくれませんか」

その石像の前に跪き、肩をすぼめてそう語りかける。
持ってきていた水筒はすっからかん、降りた駅で買ったペットボトルもすべて空。
おにぎりやお菓子といった類いもすでに底をつきていた。
太陽はまだ頂点に近い場所にいる。
せめて川や池のようなところにまでいかないと、飢餓の前に脱水症状かなにかで死んでしまう。
しかし(当然)返ってこない言葉に、がっくりとうなだれて地に手を這わせる。

「助けてやろうか」
「はっ?」

突然、当たりに声が響いた。
私にかけられたのだろう台詞に、思わず肩を戦慄かせて顔を上げる。
声の主を探せばそれはすぐに見つかった。
真夏だというのに長袖のYシャツを着た青年である。
一瞬、季節外れな幽霊かなにかかと疑ったが、しかしやはり暑そうに腕まくりをして額に手をやっているのを見て、すぐに疑いも霧散する。

だがしかし、やはり疑問は残る。
なぜ正装のようななりをした青年が、こんな山奥にいるのだ。
まるで偶然、近くを通りかかったような顔をして。

「この先にあるY字路、気がつかなかったんだろう。外から来たやつはみんなそうやって迷うんだ」

いつまでもぼんやりとしているのに耐えかねたのか、青年はそう続ける。

「水はあるのか?」
「……えっと、ありません」
「村にいけば誰かしらくれるだろ」

ついてこいと言わんばかりに、男は手を仰いで歩いて行く。
私は戸惑いつつもふらつきながら立ち上がって、それについて行った。


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