第六感

テレビは、相変わらず昨日の土砂崩れのニュースを流している。
よほど大きな事故だったらしい。村との交信は全くできず、村人たちの安否も不明のようだ。
近くまでそれなりに名のあったレポーターが取材に行っているようだが、そのレポーターとも交信が取れないと騒いでいる。
これはこれで心配だったが、私はそれよりも面倒な事に直面していた。

昨夜の男が、私に背を向けテレビに食い入っているのだ。

男は無理やり私の家に上がり込んだかと思うと、真っ先にテレビを付けた。
叫んだ声を飲み込んだのは、男の顔が深刻な表情を刻んでいたのを見てしまったから。
いくら待っても男が動く様子はなく、仕方なくビショビショに濡れた廊下を雑巾で拭き、そのまま夜を明かした。
その間も、男はずっとニュースに食い入っており、現在に至る。

「あの」
「ここはどこだ」
「は?」

男は唐突にそう切り出してきた。
こいつは話の流れというものを理解できないのだろうか。

「ここはって……」
「俺がいたのは、羽生蛇村のはずだ」
「は、はぬ?」
「なぜ俺は埼玉にいる」
「いや……」

そんな事を聞かれても私には分からない。
そもそも、勝手に人の家に上がり込み、勝手に人のテレビを独占しているような人間が言う事だろうか。
しかも女一人で住んでいる部屋に。雨で濡れた白衣はおろか、それに濡れた廊下だって気にしちゃいない。
知らんがな、とっとと出ていけ。
ちゃぶ台返しのごとく、追い返してやりたかった。

それに、この男があまりにも非常識な人間なのはこの半日で分かったが、どうしても追い返したい理由がもう一つあった。
第六感。これで大半の人は匙(サジ)を投げてくるだろう。
だが、私の第六感は良く当たる。じゃんけんがその例だ。
―――この男と、共にいてはいけない。
そう、本能に呼び掛けているのだ。

「お前、同居人はいるのか?」
「なんでそんなこと」
「この丈ではお前の体格に合わない」

この男と会話するのは苦労がいる。
男の手には灰色のジャージがあり、それは170cmほどの人間を対象にしたサイズである。
たしかに『コロボックル』の異名を持つ私には大きすぎる。

「前の同居人が置いて行ったものです」

それが何か。と言う風に吐き捨て、溜息を吐いた。
どうこの男を追い出そうか。
幽霊の類は信じなかった両親も、私の第六感は良く信じてくれた。
周りにどんなに言われようと、自信を持ちなさい、と。
だが、他人はそう容易く無下に扱って良い物ではない。
そう教えを説いたのも両親だ。

「すぐに出ていく」
「え?」

男は、立ち上がりながらそう言った。
まさかこの非常識男の口からそんな言葉が出るとは思わず、唖然とする。

「交番の場所だけ教えてほしい」
「はあ。……あ、えっと―――」

男の白衣はすでに乾いていたが、中のT-シャツやズボンはまだ湿っているようだった。


表紙に戻る
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -