大家の厚意

大家さんは懐も広い方ですから、歓迎してくださると思いますよ

苗字名前が大学の講義でいない間、遠回しに部屋にいることを拒む言われ方をされた。
これと彼女の警戒心はまったく別ものだろう。
警戒もそうだが、見ず知らずの人間を自分の部屋に置いておくのは
俺だって不快感を覚える。

大家の部屋でもある一階は、広めに作られていた。
亡くなった夫がよく親戚を集めていたせいもあるらしい。
壁がぶち抜かれて二部屋分の広さはあり、さらにその隣の部屋とは玄関が結合した形になっている。

「昔はよかったんだけど、今じゃあ広すぎて。だから、レクリエーションていうの? たまに小学生も呼んでるのよ」

苗字とは正反対に、大家は来る者をまったく拒まない性格のようだ。
ちらりとのぞいた客間に大人数で遊べる男女兼用のおもちゃが置いてあるのが見えた。
"家の使い"とやらもその一例だろう。

「名前ちゃんに追い出されたんでしょう。はい、お茶どうぞ」
「いえ…いただきます」
「それで貴方、いったいどうしたの? 名前ちゃんの関係者でもないし、警察にもお世話になって」
「それが、少し記憶があいまいで……」

大家も深く聞いてくるつもりはないらしい。

「できるだけ早く出て行かせてもらうつもりです」
「そう。……ところで宮田さんは免許持ってるの?」
「え?」
「車の免許よ。今の若い男の人はみんな持ってるって聞いたけど」
「あぁ、持ってますよ。免許証はいま持ってませんが…」
「なら!」

大家はすこし嬉しそうな反応を示すと、立ち上がって玄関に消えた。
戻ってくると「主人のモノだったんだけど…」と車のカギを手渡された。

「そろそろ手放そうかと考えてたんだけど、宮田さんにあげるわ」
「えっ」
「ここの前に赤い車があったでしょ?」

そういえば、このアパートにはそぐわない真っ赤な車が置いてあったことを思い出した。
てっきり自分と同年代の人間のものかと考えていたが、この婦人の所有しているものだと知り驚愕する。

「私、免許持ってないのよ」
「でも僕も自分の車は持ってますから」
「ならここにいる間だけでも持ってて。あの車、置物じゃあ勿体ないでしょう?」

しばらく大家の厚意を断り続けたが、大家は譲らず、結局俺が折れることとなった。
大家は満面の笑みで、さらに続けた。

「そうだ、この辺りにオシャレなお店がオープンしたんだけど、そのペア券があるの。
私みたいなおばさんが行くより、宮田さんと名前ちゃんで行った方が様になるわ」


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