極秘

なんでも、城聖大学の辺りの屯所で処理された事件は隣町の警察署へ集まるらしい。
何でもないようにその中へ通され、「ここで待ってて」と食堂の二人席に座らされた。
二十分ほど待ち、まだ来ないのかと席を立とうとしたとき、ファイルを隠すように持った先輩が走ってやって来た。

「これ見て」

表紙には、≪極秘≫と書かれている。隠しながらやって来たのも、納得がいく。
だが表紙にあるように≪極秘≫のファイルなのだから、一般市民が見ていい物ではないはずだ。

「ちょっと、私になに見せる気!?」
「良いから、これ見てってば」
「止めて!」

声が荒くなり、騒がしかった食堂が静かになる。
視線が集まるが、どうでもよかった。

もう、遅かった。
開かれたページには、見たことない男の写真が貼られていて、目は誰が見ても狂っていた。
睨むと、先輩は一昨日のアレが嘘のように神妙な顔で、声を潜めて口を開く。

「ちゃんと見なくても分かるだろ? こんな話が、あのあたりではずっと昔から続いてる」
「……こっちに来たときには、何も感じなかった」
「それは知らない。ただ、……こっち見て。あ、直視しなくていいから」

ちらりと開かれたページを見ると、老若男女、十人程度の写真があった。
しかしどれも死人の顔が添付されていて、添書には発狂して自害したり、脱走して道路に飛び出したりで、全滅したらしい。
そういえば数年前、埋め立て地でもないのに陥没事故が起きたことがあった。
周辺一帯の住民たちが行方不明になったと、ニュースで騒いでいた記憶がある。
その時はまだ中学生だったから、そこまで関心は無かったが―――

「その生還者だ」
「…………」
「彼らの事は、公表されてない。俺も、一昨日初めて知った」

全身から力が抜けていく。
視線はもう集まっておらず、人もいい具合に混んできた。
≪極秘≫とされている書類なのだから、人目に触れることは望ましくないだろう。

「それで、あの宮田さんのことなんだけど―――」
「おーい、神崎じゃねぇか」

背後から、先輩の同僚らしき男性が顔を覗かせた。
先輩の顔が、一瞬にして固まる。
男性は私を見ると、驚いたような顔をした。

「お、神崎の彼女? なんだよお前、彼女できたなら教えろよ!」
「違いますって、それより馬場さんは課が違うでしょう!」

先輩の先輩らしい。ヒョロッとした先輩と違い、体格の良い男らしい人だ。
ファイルが視界に入らぬよう、努力をしているようだ。
こちらもさり気なくファイルを膝の上に乗せる。
そのまま立ち去ろうと立ち上がり、馬場さんの問いに笑顔で会釈した。

こんど一緒に飲みにでも行こうと誘われたが、きっとそれは無理だろう。
なんとなく、そんな気がした。


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