急転直下

「訳わかんない!」

車のキーを取り、乱暴にドアを開けた。
雨が少し降ったようで、手すりや砂利が塗れている。
今日の掃除の当番は大家さんだ。

「名前ちゃん」
「おはようございます」
「その首どうしたの?」
「なんでもありません!」
「ちょっと、」
「車借ります!」

エンジンをかけ、アパートから出ようとした時だった。
塀の影から誰かが出てきて、車のボンネットに乗り上げた。
思わず悲鳴をあげて、急ブレーキを掛ける。
乗り上げたのは、先輩だった。


「その首の痕は何?!」
「分からない!」

朝目を覚ますと、何故か看護婦の着るような白衣を着ていた。
私は白衣など持っていない。
たしかに父は病院で働いていたが、私は病院に勤めていないし、大学だって私は民俗学で、医学部はない。
当然、コスプレなんていう趣味も持っていない。

宮田には問い詰めた。
けれど黙っているだけで、話にならなかった。
あげく、最後には「知るか」と言って突き飛ばしてきたのだ。
そうして(自分の部屋なのに)出て来たわけだが、外着に着替えようと、鏡を見た時だ。
鏡に映る自分の首に、青い痣がついていた。首を一周するようにできた痣。
それを見て、急に怖くなってきた。

そもそも、あの男は何者なのだ。
土砂崩れで連絡の取れない村の人間とか言っていたが、それ以前にあの黒いモヤ―――
今まで見てきた霊の類と同じだ。
音もなく現れる『人間』なんて、会ったことがなかった。

先輩は車に勝手に乗ってくると、話は聞かずに隣町の警察署に向かってくれと言ってきた。
車を出しながら理由を聞くが、歯切れが悪い。「とにかく」としか言わない。
男はみんなこういうものなのか。

「なあ」
「何ですか!」
「それ、どう見ても……いや……」
「言いたいことあるならはっきり言って下さい!」
「……手で絞めた痕、だよな」

思わず首に触れた。
自分で見た時は「変な痣」としか思わなかったが、思い返してみるとたしかに首を絞めた痕とも見れる。
背中を、冷たい物が走った。


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