夢の中

*、殴ったり吐いたりしてます

嫌な夢をみた。
数年前に亡くなった求導師様が、首を吊って死んでいるのだ。
いやに蒸し暑い。
ダラダラと汗が噴き出るのは室温のせいか、この光景のせいか。
黒く大きな背。眞魚字架に祈りを捧げる彼のそれとはまったく別物だった。
ふと、彼の足元に目がいった。
紙。なにか文字が書いてある。
急いでそれを手に取った。手が震えている。
しかし、なぜか紙に書かれていることが何なのか理解できなかった。
ただ、もう生きていくことが辛いということしか俺にはわからなかった。

あの求導師様が自殺した。
――― どうして?
そういえば、最近ずっと悩んでた。
――― あれはSOSだったんだ。
声をかけるべきだった。
――― なんて声をかければ良かったんだ?
どうして相談してくれなかったんだ。
――― 子供の俺に、なにかできたのか?

押し寄せる後悔や自責の念に、ひざを折った。
やがて部屋に誰かが入ってきた気配がする。
俺はこいつを知ってる。そう思ったが、頭が上がらない。
こいつは俺の隣までやってきて、ようやく見えたその足元から男だと直感した。
しばらく男は立ち尽くしていたが、ゆっくりと動き出し、求導師様を下ろした。
下ろされた求導師様の顔を見て、俺は固まった。
あのとき見た安らかな顔とはかけ離れた、すごく苦しんでいる顔だった。
そしてその顔は、あの求導師様のものじゃなかった。

慶。
掠れた声で、自分でもわかるぐらいに震えた声でそうつぶやいた。
その矢先、慶はそれまで瞑っていた目をカッと開いて暴れ出し、言葉になっていない叫び声を上げた。
うるさい。ロープから慶を下ろした男は、抑揚のない声でそう言って慶を押さえつけ殴りつけた。
殴って、殴って、殴り続け、やがて大人しくなった代わりに、慶は元がなんだったのか分からない真っ赤な何かになっていた。
そして振り向いたその男の、血飛沫を浴びた顔を見て俺は気を失った。


 ***


目が覚めてすぐ、トイレに駆け込んで胃の中のモノを吐き出した。
しかし出てくるものはなにもなく、酸味だけが口の中を支配している。

「名前、どうしたの?」

俺の様子を見にきた母親は、吐いている俺を見て慌てふためいた。
風邪の兆しはなかった。当然だ。
ただ吐き気を催す。その理由を母は知らない。

あんな夢を見て、普通に慶と話せるわけがない。
顔を合わすのも無理だった。
なぜ、どうして、あんな夢を見たのか皆目見当もつかない。
学校に行きたくない
かすれ声でそう言うと母さんは二つ返事で了承してくれた。
(普段バカ騒ぎしているおかげだろう)

「慶くんにも電話入れておく?」
「たのむ…」

慶の名前がでて一瞬ドキリとするが、何とかそれだけ言って部屋に籠った。
窓から見える空には暗雲が立ち込めている。
そういえば嵐が近づいてきているというニュースを聞いた気がする。
正直あんな夢を見ただけで休むのは気が引けたが、嵐が来るのだから良いだろう。
そう言い聞かせて布団に包まった。


表紙に戻る
「#学園」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -