双子

朝、バスの中でチラリと宮田の様子をうかがった。
やはり彼はいつものように難しそうな本を読んでいる。
『次は如月二丁目〜、如月二丁目〜。如月病院はこちらのバス停で…』
たしか少女が使っていたバス停だ。
そう思った矢先、バスに乗車してくる彼女を見つけた。
横にいる慶をうかがうと、昨晩も遅くまで勉強していたのだろう、目をとろんとさせてウトウトしている。

「慶」

小声でそう呼びかけると、うん、と小さく呻いた。
その声を聞き、ずいぶん声変わりしたものだと感じる。昔は女の子みたいに泣いていたのに。
そういえば慶が求導師になる前、八尾さんに髪を結ばれたりワンピースを着せられていた記憶がある。
一時期、慶が男なのか女なのか本気で困ったことがあった。
いま思い返せば、十分、黒歴史だろう。


「おーい、宮田ぁー!」

いまだ眠気眼の慶を引きずりながらバスを降り、宮田を呼び止める。
もちろん彼女も一緒だ。

「おはよう。おばさん体調どう?」
「ああ、ずいぶん良くなったよ」
「じゃあ今日は弁当か」
「いや、今日も学食だよ」

宮田は右頬に、慶は左頬にホクロがある。
そうでなくとも二人は性格が違うし、幼馴染であるせいか遠目でもすぐわかる。
後ろを振り向くと、彼女は目を白黒させて歩いていた。
意中の相手と同じ顔が2つもあるのだ、そりゃ驚くだろう。
一方で、本当に双子であるということを知らなかったとは、呆れ半分だった。

「彼女は?」

気付いたらしい宮田にそう問われ、俺は詰まった。
そういえば、彼女の名前を覚えていなかった。

「あ、えっと、C組の高橋です。去年同じクラスだった…」
「それは知ってる。なんで苗字が高橋さんと一緒にいるんだって話」
「えっと…それは、」
「昨日、少し話したんだよ。それが盛り上がっちゃって」

宮田は相変わらず興味なさげに「ふうん」と言って先に歩いていった。

「高橋さん、行かないの?」
「えっ?」
「だって宮田に興味あるんだろ。俺らと居ても、ほら」

そう促すと、高橋さんはおずおずと宮田を追いかけて行く。
ポソリと小さな声で「ありがとう」と言う彼女に、宮田が恨めしく感じてくる。

「宮田め、根こそぎカワイイ女子を持っていきやがって! なあ、慶!」
「えっなに?」
「くっそー!」

俺だって宮田より愛想がいいはずなのに、どうして俺にはファンがいないのだ!
あれか、結局顔か!
話を聞いていなかったらしい慶は、キョトンとしたあと慌てだした。
いや慶だって宮田と同じ顔だ、宮田と間違われることはあるが女子に好意を持たれていた記憶はない。
それなりの顔をしているにも関わらず全くモテない奴もいれば、女をとっかえひっかえするような奴もいるし、女子という生き物はまったくもって分からない。
前を歩いている男女の背中を眺めながら、俺は地団太を踏んだ。


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