色恋

街の高校とはいえ、テスト期間中の夕暮時は人気が消える。
そろそろ帰ってしまいたい、と思い始めた頃になって、ようやく彼女は現れた。

「苗字くん、待たせてごめんね」
「いいよ。先生に呼ばれたんだろ」
「う、うん。そうなんだけど…」

俯いているせいか上目遣いになっているところが、昔の慶にどことなく似ていた。
根は優しい、でも自分の意見を強く言えないから損を被りやすい。
彼女はたしか、途中のバス停で乗って来ていた記憶がある。
「バスの方向同じだよね?」と聞くと、小さく「うん」と答えながら頷いた。

「それで、話って?」
「あ、あのっ、苗字くんって、宮田くんとよくいるよね」
「え?」
「バスも同じだし」
「あー、まあ同じ村だから…」

くっそ宮田かよ。
心の中でそう毒づいて「それで?」と促すと、彼女の有無が知りたいという旨の質問ばかりで、辟易する。
たしかに宮田は女子から人気がある。
だから彼女ぐらいいても不思議ではない、たぶんそう言いたいんだろう。
しかし、宮田とそう親しい人間なんているのか? というのがまず浮かぶ疑問だった。
人気とはいえ無愛想で、俺にしてみたら友人らしい友人を作るような人間とは思えない。

一方で、告白した女子をこっ酷く振っても、逆にそこがいいなんて言われている。
その話を聞いたときはさすがに俺もドン引きした。
どちらにか、という質問は愚問である。

「たしかに同じ村出身だけど、彼女の話するほど俺たち仲良くないぜ?」
「でも、けっこう話してるよね」
「まぁ、他のやつらに比べれば…」
「えっでもいつも隣に座ってるでしょ?」
「えっ」

いつも隣に座っている、それはバスでのことか。ならそれは慶であって宮田ではない。
双子だから間違えたのか?

「えっと、それはバスで?」
「うん」
「…バスでいつも隣なのはけ…牧野だけど」
「牧野?」
「宮田の双子の」

ポカンとする彼女は、しばらくしてもその表情のままだった。
もしや…牧野の存在を知らない?
いやまさか。
一年半、同じ学校に通っていてそんなわけがない。

「えっと、宮田って双子いるんだけど」
「……え?」
「その宮田って、学年一位のだよな」
「…うん」
「俺といつも一緒にいるっていうのは、バスとか学食でのこと?」
「……うん」

気まずい空気が流れ始める。
それはねえだろ! と叫びたかった。
疑ってかかるような目を向けられるが、疑いたいのはこちらだ。
意中の相手と同じバスで通っているのに、双子の存在すら知らないなんて。
二人同時に会わせるしかないか―――そう悩んでいるうちに、彼女の降りるバス停に着いた。


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