壊れた卵

「おはよう」

こちらを見てビクリと身体を固まらせるクラスメイト達の脇を通り、自分の席に座る。
バスの中でも、校門に入った時も、どこもかしこも好奇に満ちた目でこちらを窺っていた。
教室に来れば必ずと言っていいほど話しかけて来ていた佐藤は、今はいない。
半年の停学を食らっていて、親たちの話し合いや本人の反省具合では退学処分になるかもしれない、と噂には聞いている。
今回の事件で、俺も深く関わっていると言う噂も。
実際は俺のまったく知らない所で進んでいた話であって、一方で、外側に近いとはいえ俺が関係しているのも事実だった。
だけどなにより、慶と俺の関係の裏側が、俺にとってかなり衝撃的だった。


「あの、苗字くん」

学食帰り、ふと顔を上げると高橋さんがいた。
ようやく宮田の発狂事件が治まり始めたかと思えば、こんどは同じ村の同じ顔を持つ慶が事件の中心に祭り上げられた。
"羽生蛇村の双子が、立て続けに事件の中心人物になった"
そういうわけで、高橋さんもまた好奇の目に晒されたわけだ。
俺と同じで、多くの人がいる場所では肩身が狭いのだ。

「なあ。宮田がホモだって噂、どこで聞いたの?」

眉尻を下げて、不安げな顔を浮かべていた高橋さんの顔が、虚を突かれたように唖然とした顔になった。
なぜ知ってるの、なぜいまその話をするの。そんな顔に見えた。

「な、なにそれ」
「高橋さんって牧野と宮田の区別ついてなかったよな」

いま、自分がどんな表情をしているのか分からない。
怒っているのか、笑っているのか、引き攣っているのか…。
――こいつが鈍感で本当によかったな
佐藤が慶に吐き捨てた台詞が、今でも脳裏にこびりついている。
あそこまで言われてしまえば、その"鈍感"な俺でも予測ができた。

「なあ教えてくれよ」

高橋さんは、どもりにどもって、今にも泣き出しそうな顔をした。
それまで吐いてきた嘘や言ってきた感情論を論破された女子が、似たような顔をしていた。
視界がぶるぶると震える。気持ちの整理も起こった事の整理もまったくついていない。

「いとこが、ゲイなの」

いとことは仲が良かった、だから"そういう"視線や表情は、見ればすぐに分かる
ある日、宮田らしき人物が遠巻きに俺をそういう風に見ていたところを目撃した。
高橋さんは宮田らしき彼はそういう人物なのだと直感した。
しかしそんな彼が俺に興味を示す時と示さない時があって、それを観察しているうちに宮田に好意を抱いていた。
そこで高橋さんは、彼と親しい俺に近づいてきた。
そうしたら、宮田には双子がいて、その双子が俺にそういう態度を取っていた。
顔のよく似た一卵性の双子なら、嗜好も同じではなのだろうか?
急に湧いた好奇心を、深く考えず、婉曲的にだが、宮田に直接尋ねてしまった。
涙ぐみながら語る彼女の話を要約すると、そういうことだった。


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