プリン1

「頼人、頼んだプリンと違う」

珍しく顔を青白くしながら布団で寝ていた名前が、袋からおもむろにプリンを取り出すなりそう言った。

「…プリンなんてどれも一緒だろ?」
「私が頼んだのは一つ百円の焼きプリン。これは三つで百円のプッチンプリン」
「そっちの方が多くて良いじゃん」
「違う、私が求めてるのは量じゃない」

こんな安っぽいプリン、そう文句を言いながらも財布から百円を取りだして、とりあえずのありがとうを貰う。
触れた指がいつもよりガサガサしていた。
髪もパサついていて、顔色も相まってどう見ても病人というなりだった。
当然だ、いま街で流行っているインフルエンザに感染しているのだから。
本来なら自分もここに居てはいけないのだが、どうにか目を盗んでこうして頼まれた物を運んでいる。

「それにしてもどこでもらってきたんだよ、インフルエンザ」
「たぶん、街に出たときかな」
「こんな時期に…」

今年初めてのインフルエンザ感染者。
特に数が少ないゆえに交流の深い女性陣はピリピリしていて、その餌食とならないよう男たちは正直ビクビクしている。
身体が資本、上官から口を酸っぱくして言われることだ。
それも分かっているはずなのに。

ふと名前から視線を外すと、棚の傍に見慣れぬものが置かれていることに気が付いた。
ご丁寧に、布も被せられて視認しただけでは分からないようになっている。

「名前、なんだこれ?」
「ちょっと待って、あぁ…」

布を取ると、色やデザインこそ地味だがプレゼントだろうなぁという袋が現れた。
送る相手が男というのはすぐに分かった。
思わず名前を見やると、気まずそうな顔をしている。

「言い訳していい?」
「……聞く」
「上官の誕生日にね、みんなでサプライズしようって話になって…」
「…それで、俺の誕生日にはなにもないわけだ」
「そのことは本当に悪かったと思ってるよ」

もちろん名前が能動的に誕生日プレゼントを買ったりするような性格ではないことは知っていた。
友人と、共通の知り合いにプレゼントを割り勘したり、サプライズをしようと誘われてようやく腰を上げるようなタイプだ。
だから、名前の説明には納得する。するんだがしたくない自分がいる。
なんせ自分の誕生日には「おめでとう」の一言もなく、しばらく経った後に「そういえば」とその話題に少し触れられただけなのだから。

そのことを思い出して、当時のやり場のなかった怒りが腹の底が燻りだす。
これを隠すつもりはなかった。
思いっきり態度に出してやれば、名前はさらに気まずそうな顔になる。
ごめん、と小さく謝られるが、それでも気が治まることはない。


「プリン、食べていい?」

しばらく無言だった空間に、名前がそう言った。
彼女の手には、まだ封の剥されていないプリンがあった。
三つで百円の、安っぽいプリン。
頷くとまた小さくありがとうと言われて封を剥しだした。
プリンの甘い匂いが鼻をくすぐる。
ひとつ、思いついたことがあった。

ベッドに腰掛けて、名前に向かって口をあんぐり開けた。
きょとんとした顔をするのに、プリンを指さして「ん」と催促する。
しばらくプリンとオレの顔を見比べていたが、合点が行ったらしい顔をして、呆れ顔になる。

「私、一応インフルエンザなんだけど」
「いいから、くれって」

それでも眉を顰める名前がもどかしく、強引にその手にあったプリンを一口咀嚼した。

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