たなばたさま

シトシトと降り注ぐ霧雨の中をかけあしで進んでいく。
それほどに強くない雨ゆえ、傘をさしていても胸元まで湿ってくる始末だ。
ただでさえ蒸し暑く、汗ばむ季節だというのに、この雨のせいでもっとストレスになる。
ここ最近、しっかりとした雨が降っていないのだ。
代わりにこうして霧雨のような、ジットリとした雨が慢性的に降っている。
それが余計に堪えていた。
盛大に溜息を吐いた矢先、背後からカーライトで照らされクラクション音が響く。
驚いて振り向くとそこにはパトカーがいて、中には顔馴染みの警官が乗っていた。


「最近、こういう雨ばっか」
「そうだね」
「今年こそ見れると思ったのに」
「天の川?」
「うん」

幼いころ、学校行事の一貫だったか何かで見た、天の川。
イラストで見るような白くはっきりとした川ではなく、薄く伸びる、様々な色が混じったなんとも言えない色の川だった。
悪く行ってしまえば、ときどき道端で見る油のような色と模様。しかもその極薄版。
子供心にショックを受けなかったと言えば嘘だが、今となれば星の大群なんだから当たり前だと落ち着いている。

「ねぇ、徹って子供の頃なにお願いしてた? たなばたに」
「え? えー……『スイカをたくさん食べたい』とか」
「…………」
「あとウルトラマンになりたいとか。……名前?」
「ごめ、ごめんっ、ぶはっ」

やっぱりみんなそうだよね。
そう言おうとしたが、笑いが先に来てしまって肩の震えを抑えるので精いっぱいだ。

「そういう名前は?」
「徹とだいたい同じ。私の場合はプリキュアだったけど」
「プリキュアっ」

直後、徹も吹き出して、ふたりで車内で大笑いする。
さり気なくプリキュアって柄じゃないだろ、と言われたので脇腹にパンチをくれてやった。
書いても叶うか叶わないか分からないんだし、書けるモノは書ける内に書いておいた方が得だ。

「名前んち、今年は笹やるの?」
「どうだろう。休日はほとんど雨だったし」
「意外と名前の家で短冊書いていくの楽しみなんだけどな」
「メインは短冊じゃなくてお酒でしょ」
「ハイそうです」

やがて私の自宅につくと、母と二言三言交わして「残業が無かったら、また顔だしますね」と去っていった。
居間に入ると乾き切らなかったのだろう洗濯物で占領されている。
その中に私の下着なんかが紛れてるのを見つけて、ああ、プライベートじゃなくてよかったと安堵した。

「母さん、今日笹はある?」
「一日中雨だったからねぇ」

乾き物がまったく乾かない、乾物が湿気る、とぼやきながら台所に消えていく母を見送って、縁側に出る。
もう雨が上がっているのに、まだジットリとした空気がそこらじゅうを這っている。
雲で覆われている空を見ながら、来年こそは、と願掛けをした。

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