7.

「目に傷はなかったから、とりあえずは大丈夫だと思うよ」
「ありがとうございます」
「でもこういう事故で視力が落ちるケースもあるから、要観察ね」
「…わかりました」

診察室を出ると、私と同じように眼帯を付けた人が何人か待合室に座っていた。
隅に座っている子どもがジロジロと私の顔を見てくるだけで、ほとんどの人が慣れている様子だった。
また名前を呼ばれて、診断書と処方箋を出された後、診察代を提示される。
処方箋の目薬を点した後、改めてお礼を言って病院を去った。

「先生、なんだって?」
「要観察だって」
「目は大丈夫なの?」
「傷はないみたい」

病院から少し歩いたところにあったおばさんの車に乗り込むと、すぐに車は発車した。
シートベルトを締めて、ふとを顔を上げたさきにホームレスが横たわっているのが見えた。
生きているのか、死んでいるのか、それは遠目には分からなかった。

「学校はどう?」
「普通だよ」

私が誘拐された日、おばさんは小学生を誤って轢いてしまっていた。
小学生の安否を確認して、警察や救急車に連絡して、学校や小学生の親と連絡を取っている間に私が誘拐された。
おばさんは悪くない。仕方がなかった。
だけど、おばさんはそれを負い目に感じているようだった。
母さんが病院に入院している間、おばさんは父親に代わって私を引き取ってくれた。
母さんが退院したあともちょくちょく会いに来てくれたり、こうして病院に連れ出してくれて。
別にいいのに。
そう思っても、直接言える勇気はなかった。




『それで、目は大丈夫なのか?』
「……」
『眼帯して学校に来た日には、すごく心配されるだろうな』

嫌味か。そう心の内で悪態を吐く。
アイフォンが震えて、母さんかと思ってつい反射的に出てしまった。
そしたら相手があいつで、ものすごく不愉快な気分になる。

『なあ、学校にはいつ来るんだ』

眼帯は付けているものの、もう学校には行ける状態だった。
でも怪我をしてから二週間、学校には一度も行っていない。
心操に会うのが嫌だったのもあるけれど、眼帯をつけて学校に行って、好奇の目に晒されるのが嫌だった。
きっとこうして学校に行かないコトでも注目を集めている
そう考えると、こんどは学校に行くことすら億劫になって来ていて。

『みんな心配してる。お前のクラスの加藤とか…』
「あの人、私が目ぇ合わせないって悪口言ってた」

心配だ、そう口では言いつつも心の中では蔑んでいるのだ。
理由なんてない、ただ気に食わないだけだ。
私はそれがムカついた。
このまま会ったところで私は彼女を傷つけるし、最悪殺しかねない。
だから、この感情が落ち着いて、コントロールできるまで学校には行かないつもりだった。

「そういう人には、今は会わない」

そう言い切れば、相手は黙り込む。
心操だって私の個性を知っている。
彼も目撃者の一人なのだから。
電話を切って、画面を見る。通話時間は2分だった。

心操の考えていることが分からない。
なぜ直接私に会いたがるのか、その意図がまったく掴めなかった。
"悪意"
いまの私は、それに近いものを彼に抱いている。
心操に会えば必ずと言っていいほど不愉快な気分になるし、思い出すのも嫌になるほどだ。
ちょっとした不快感から感情が爆発することだってあると、心操も分かっているはずなのに。
いま、だれかに会うことがとてつもなく怖くなっている自分がいた。

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