5.

自分の部屋にもどり、メールを確認するためにアイフォンを取ったときだった。
まだ開いてもいないのにアイフォンが震えて、画面が開く。
ビックリして覗いてみると、数字の羅列――電話番号があった。
見たことのない番号に動揺して、一体誰だろうかと考える。
――父親かもしれない
不意にそんな考えが巡って、受話器マークを押した。

「もしもし」
『…古屋?』

遅れて聞こえてくる男の声に、首を傾げる。
生で聞く声と電話口の声とは、違うように聞こえるものだ。
でも父親とはなんどか電話で話した事があるけれど、こんな声ではなかったはずだし、私のことは下の名前で呼ぶはずだ。
一体誰だろう、オレオレ詐欺だろうか
そう訝しんだ矢先、電話口の男が名乗った。

『俺だよ、心操』
「あんた…」
『言いたいことがあるんだ。会って話したいんだけど』
「イヤ」
『学校の近くの公園で待ってる』

なに言ってんだよ、とツッコミも入れる間もなく電話が切れる。
画面を見ると、通話時間はたったの20秒。
これを言うためだけに、電話を掛けてきたのだろうか。

私がアイフォンを持ったのは高校生になる少し前だ。
小中学校まで使っていた携帯電話に入っていたデータは引継ぎしていない。
でも、心操とは番号やメルアドの交換はしていないし、どういうものを使っているかも知らないのだ。
だから登録もしていなくて、番号がそのまま出た。
それに言い知れない不快感に包まれる。

――学校の近くの公園
この街はベッドタウンだ。公園なんてそこら中にある。
おなじ名前でも、東側と西側と、また町会ごとでも違う公園だったりすることもあるのだ。
最悪なことに、私と心操は違う町会だったし、距離も離れていた。
それに学校近くの公園だなんて、外で遊ぶような子どもではなかった私には皆目見当もつかない。
ただ、私は速攻で断った。「行く」とは一言も言っていない。

それに。
会って話す? 私が?
マンガやドラマでは感動の再会、と言いたい所だろうけれど、私にしてみればただストレスが溜まるだけだった。
私にとって、ストレスのような負の感情は一番取り除かなければならない要素なのだ。
このまま会ったって、余計に憎悪を抱くだけ。
もし、それで彼を見てしまったら――。

糸が切れたように倒れ込んだ、あの三人組が脳裏に浮かぶ。
――あいつも同じ目に遭えばいい
あの人は最期にそう言っていた。
あいつって誰? 同じ目にって、どういう意味?
怖い。嫌。死にたくない。
後ろに突き飛ばされて、頭を強く打った。
グワングワンと回転する視界に、あの人の目が映った。
殺してやる、そう言わんばかりの目。
なぜそんな目を向けられるのか、私には皆目見当もつかなかった。

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