23.

就職を期に実家を発って以来、実家には帰っていなかったから、顔を出せば両親は喜んだ。
声を聞けてよかった、そう安堵するように言った母は、ベッドに横たわったまま、自分の力で身体を起こすことすらできていなかった。
母のいない所で父に尋ねれば、ガンであまり先が長くないらしい。
どうして教えてくれなかったのか詰め寄れば、母さんが私に教えるのを拒否したのだという。

しまったと思ったときには少し遅くて、しばらく横になっていた父に代わって家の仕事をし、家を出たのは約束の時間までもう30分も無いと言う頃だった。
ごめん、遅れるかも、とメッセージを送れば、すぐに「分かった」という返信がくる。
他にも私のように遅れて参加するメンバーが出ているらしい。


このまま「ごめん、やっぱりむりそう」と言ってばっくれてしまおうか
そんな考えが頭をよぎってしまう。
あれから何年経ったかを数えるつもりはない。
雄英を去ってから過去の事はもう考えないよう徹したし、心操のこともできるだけ忘れるようにしていた。

でも、やっぱり、どうしても心残りとして記憶にずっとへばりついていたのだ。
最後の電話で聞こうとして、結局やめたこと。
番号を書いた手紙を先生に渡したとき"電話が掛かってきたら言おう"と決めたのに、心操の声を聞いた瞬間、怖気づいた。
たまたま居合わせただけの少年のトラウマに、付け込もうとしているような気がして。

私の事は忘れて、あの日の事でもう付きまとわないで。
あの言葉は、本心だ。
あれは、私の個性が人を殺せるものだという教訓として、私が記憶に留めておくべき事件だ。
事件が起きてしまった原因を作ってしまったのはたしかに彼だが、同じことはだれでもできたし、誰がいなくても起きることだった。
だから、心操が気に留める事件ではない。
無理だと言われても仕方ない、けどあの事件はもう済んだことだから、もう。
また掛けてもいいか
そう返されたとき、また妙な感情がわいた。
素直に「いいよ」と答えれば良かったのに。
余計な意地が邪魔をして、また番号を変えることを示唆させて。

怖かった。
あの事件がなければ、心操はきっと声をかけてこなかった。
他人と目を合わせず、会話にも乗らないつまらない人間。
それも人に害を与えることしかできない個性の人間と、他の人と同じように後ろ指を立てていたはずだ。
個性が発覚する前からの顔見知りとはいえ高校生になってから初めて言葉を交わしたような仲で、あの事件前後は接触すらなかった。

どうして、今頃になって近づいてきたの
私の個性を分かっててなんでそんなことを話したの

その答えを聞くのが、怖かった。
もうすべて終わったことだ、聞かなくたっていい。
知らない方が良いこともある。
私のような人間なんて。
そう、自分を言い聞かせた。
結局は自分が傷つきたくなかっただけなのに。

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