24.

待ち合わせをしていた駅のホームに降り立って、喧噪と群衆に揉まれながらどうにか改札口までたどり着く。
時刻を見れば、まだ全然間に合う時間だった。
良かった、そう安心した矢先、ちらりと見慣れた顔が見えた気がした。
でもすぐに見えなくなって「あ」と思っている間に行き交う人々と肩がぶつかる。
群衆の熱とは違う、別の理由から来る汗が、背中を伝う。
心臓が嫌に音を立てていて、胸も苦しかった。

気付けばもう目の前まで来ていて、あの再会したときと似たような笑みを浮かべている。
違うのは、お互いもう"少年"とかいう表現では呼べるような年齢ではなく、どこかピリピリしたような緊張感だった。

「久しぶり」
「久しぶり、変わってないね」
「そっちはだいぶ変わったみたいだけど」

そう論うのに、クソ野郎と自分を罵る。

「ヒーローになった気分はどう?」

その質問に、純粋な質問だよ、と付け加える。
どこから手に入れたのか、去年頃に先生からアイフォンに着信が来たのだ(まあ個人情報の横流しなのはお察しだ)。
テレビに彼が映っている、と。
生憎、私は出先で見ることはできなかったけれど、後々ニュースや記事で彼らしき姿が見えて。

「なんていうか、ちょっと変な気分かな。人気者って柄じゃないし」
「でもカッコ良かった」

そう告げれば心操は数回瞬きをして、「ありがとう」と小さく言った。


高校側が主催の同窓会、それに集まるのはやはりヒーロー業界で活躍するヒーローたちはもちろん、サポート会社や雑記者として働いている面々が多いと聞く。
最初、私は行くつもりは全くなかった。一切の過去を捨てたつもりだったから。

会場までの道を、心操が先に歩いて行く。
身長は思ったより変わっていなくて、でも私服姿は見たことがなかったからどこか新鮮味があった。
そもそも彼の後ろを付いて行くなんてことが一度もなかったからかもしれない。

今まで何をしていたのかとか、就職したのかとか。
雄英時代以前のことには一切触れずにそんな話をした。
心操は体育祭のあと無事ヒーロー科の編入が決まって、なんとかクラスとも上手くやって行きながら卒業も就職もしたという。
ミドリヤやバクゴウたちのようではないけれど、それなりに評価を得られている、らしい。
その話を聞いて、心の底から安堵するのと同時に、どこか後ろめたい気分になった。

「あのね」

そうして、勝手に口からそう言葉が出ていた。
心操は振り向きざまに「なに?」と尋ねてくる。
その表情はどこか楽しげで、余計に内側の黒いもやもやが増す。

「最後に電話してきたとき、言いそびれてたことがあったの」
「言いそびれてた?」

同窓会の手紙が届く少し前、アイフォンに一本、不在着信が入っていた。
会社かなにかの電話だったらいけないと思っており返したら、心操のもので、雄英の同窓会に一緒に行かないか、と誘われた。
正確にはそれが"最後の電話"だけど。
まだ表情の色が変わらない心操に「高校の時の電話よ」と告げる。
そうすればすぐに表情が強張って、サッと顔を前方に向けた。

「高校生のとき、私、酷いことした。突き飛ばしたし、個性も使ったし、心操は悪くないのに酷いこともかなり言った」
「……そんなことあったっけ」
「忘れてって言っておいて都合良すぎだけど、これだけは最後に聞かせて」

はぐらかそうとする心操にごめんと心の中で謝って、一度だけ深く呼吸をする。
最後の最後、聞こうとして口にすら出せなかったこと。

「私に声かけてきたのって、謝るためだけ?」
「…………」
「謝って、私が許した後、どうするつもりだったの?」

この質問が返事に困るものであるなんて、考えなくても分かる。
でも、聞かなきゃと思った。その答えが知りたかった。
どうして知りたいのか?
そう聞かれたとき、私はどう答えるのだろう。
きっと本音とは違った言葉を吐くに決まっている。

「そんなこと聞いて、どうすんの?」
「……気になっただけ」

ほらやっぱりね、と思いながら、私は足を止めた。

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