20.

「もう一度そんなこと言ってみなさい」

まるで私を脅しているような、数オクターブ低い声。
突然のことに、身体が強張って、胸の辺りが空洞になったような気分になる。
頬に軽い衝撃が走って、後から電流が走ったようなピリピリした感覚が残る。
まあ、普通に考えればそうだよなあ、と思考停止した脳内で誰かが呟いた。

「あなたが、雄英高校に行きたいって言ったとき、お父さんがどれだけ喜んだか、分かってるの?」
「その話は何度も聞いたから知ってる。知ってるけど…」
「合格通知が来たとき、あなたも喜んでたじゃない。なのにどうしてそうなるのよ!」

母さんの金切り声に、思わず目を瞑りながら、母さんの目が見えなくて良かったと安堵する。
もし母さんが見えていたら、私は物理的にどうにかなっていたはずだから。

「悪いとは思ってる。でも、やっぱり無理。母さんなら分かるでしょ」

こう言ってしまえば、黙り込んでしまうことは、分かっていた。
母さんが私に、父さん譲りの個性を望んでいたことも。
どうして、自分の手で自身の目を潰したのかも。

母さんだって、ある時点で自分の目が障害でしかないことに気付いたはずだ。
誰だって抱く感情なのに、たったそれだけで他の誰にも真似できないことをやってのけられる。
だから母さんは自分で自分の目を潰した。
私が同じ過ちを犯さないようにと、この目を潰そうとした。

私はまだ幸せな方だ。
こんなことを言ってしまったら人として疑われてしまうけれど、私は顔見知りは殺していないし、あの事件だって正当防衛だと言い張れる。
母さんのように友人を殺したことはないし、まだ理由を付けて彼らから逃げ切れる道は残っていた。

「私、雄英にいれる自信がない」
「…………」
「別に、辞めたあとどこの学校にも行かないとか、そういうわけじゃないし。通信制の高校とか、あまり人と接さなくても済むようなとこに行きたいの」

わがままだとは分かってる、でも。
母さんは、小さく「分かった」と呟いたあと、しばらくすすり泣いていた。
雄英に進学すると言ったとき、喜んでいたのは父さんだけじゃないとは分かっている。
たとえヒーロー科でなくとも、あの雄英に進学できたときだって、母さんは私そっちのけで喜んでいたことも私は知っている。
母さん譲りの個性
母さんは私になにかを指図したことはなかったけれど、私は母さんの分身同然だったはずだ。
だから雄英進学に喜んで、友達がいると知ったとき不安そうな顔をして、雄英を中退したいと言ったとき、絶望したような顔をした。

ごめん、私はそう言おうとしたけれど、唇が震えてできなかった。

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